第542話【異世界保健機構(AHO)7】

<<サーミス視点>>

王都へ辿り着いたわたし達は、すぐにナイチンゲール隊本部へと向かいました。


わたしも伝染病の怖さについては若干の知識を持っていたはずなのですが、我が国では伝染病自体発生した記録も無く、エリアマネージャー様からレクチャーを受けた程度の知識しか持ち合わせておりませんでした。


それよりも、その時は男性の子供を救うことで頭がいっぱいで、伝染病のことまで頭が回りませんでした。


ナイチンゲール隊本部の病室に男性を寝かせた後、隊長である第2王女の元へ報告に行きました。


「サーミス、あなたは巡回の途中じゃなかったかしら?」


「ヤミル王女様、目的地の集落に向かう途中で、奇妙な症状の行き倒れ患者を見つけたもので、引き返して参りました。


残念ながら彼は亡くなってしまったのですが、彼の子供も同じ病に罹っているとか。


わたし達では病名も判らず、医師に診て頂こうと連れ帰った次第です。」


「そうでしたか。それは、ご苦労様でした。


もしかすると、エリアマネージャー様が仰っていた伝染病かもしれません。


すぐに医師を呼んで調べさせましょう。」


ヤミル様はすぐに侍従に医師の手配をして下さいました。


「ユミル、これで取り敢えずは大丈夫だね…ってユミル!


あんた顔真っ赤だよ!


それにすごい熱じゃない。


もしかしたら彼の病が感染ったのかも…


えっ、まさか……………」


ユミルの苦しむ顔を見て、わたしは自分の犯した愚行を予感したのでした。





<<ヤミル王女視点>>

ナイチンゲール本部の執務室にサーミスとユミルがやって来たのは、夜半に差し掛かるところでした。


侍従が、検視医の手配に走りましたが、診て頂くのは明日になるでしょう。


執務室から出ていくユミルの足元がふらついているのが気になりましたが、次の予定が立て込んでいたこともあり、執務室からふたりが退出する様子を見ていました。


そして、次の来訪者が扉の外側で蹲るユミルとその横で動転しているサーミスを見つけ、大声で人を呼ぶ声が聞こえてきました。


慌てて飛び出し、皆で協力してユミルを救護室へと運びました。


もしや伝染した!と思い、隔離病棟へと移すことにしました。


隔離病棟を使うのはこれが初めてだったので、あたふたする場面もありましたが、熱冷ましの薬を使うことで、徐々にユミルの熱も下がり始めたので、ホッとひと安心して、その場を立ち去りました。


翌日の夕刻にはユミルの熱もすっかり下がり、心労と過労による発熱だと医師の診断も出たので、自宅に帰すことにしたのです。


その時もっと慎重になっていたら…と悔やまれます。


ユミルが再度発熱したのはその2日後のことでした。


再び本部へと運ばれて来たユミルの指先や顔の一部は黒く、黒インクで塗りたくったように変色していました。


「まさか!あの男性から伝染した!」


王都が黒い死体に埋め尽くされる、最悪の光景が目に浮かびました。


慌ててエリアマネージャーに緊急連絡を入れます。


そして15分後、カトウ運輸の配達員により、天然痘の薬が届き、我が星の最初の天然痘薬の治験者はユミルになりました。


さあ、早急な対応が必要です。


幸いサーミスとユミルはこちらに戻ってくる途中で、他の街や村に立ち寄らなかったと言います。


とすれば、ユミルとサーミスの王都での立ち寄り先が感染ルートと成りえます。


特にユミルは一旦自宅に帰っているのです。


慌てて防護服を着けさせた医師をユミルの自宅に向かわせました。


すると、ユミルの弟が熱を出していたのです。


エリアマネージャーに報告すると、エリアマネージャーのヤビックさんや本部の救急隊の皆さん、そして何と総帥であるイリヤ様までお越し下さいました。


「ヤミルさんだったわね。

初めてのことで大変だったでしょう。


あなたの迅速な対応、評価していますよ。」


有り難いお言葉を頂きましたが、裏を返せばイリヤ様が出てこられるほどの重大事だと言うことです。


わたしの緊張が、周りにいる隊員に伝播して、瞬く間にその場が緊張に包まれます。


「大丈夫よ。この病気は加盟星のあちこちで起きているの。


だからしっかりとした対応は可能だわ。


それに、患者の王都での立ち寄り先も限定出来ているので、被害は最小限に抑えられると思う。


さあ、皆さん、防護服を着けて患者の立ち寄り経路を中心に消毒活動をお願い。


あと、王都の全ての医師に連絡して、発熱の患者が来たらすぐに隔離して、こちらに連絡して貰うように手配を。」


イリヤ様から指示でその場にいる全ナイチンゲール隊員と騎士、王都警備隊の面々が速やかに動き出したのでした。




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