第536話【異世界保険機構(AHO)1】

<<リザベート視点>>

星全体の危機を齎した天然痘の騒動は、わたくし達、異世界食糧計画(AFP)の活躍により、ひと段落しました。


でもまだ油断はできません。

なぜなら天然痘は輸入品を媒介としてその星を席捲したのだからです。


当然他の星でも同じようなことがいつ起きてもおかしくないのです。


今回の件で、あの星の王族の活躍が全異世界中でクローズアップされました。


それに触発されたのか、他の加盟星の王族達から続々とわたしの元に問い合わせが来ています。


まあ、今回のことについてはAFPの本来の活動とは少し違う形でスタートしたわけですが、皆さんが健康被害に対して関心を持つことは非常に好ましいことではありますね。


この際、健康を守るための国際組織を設立してしまいましょう。

ねえ、マサルさん。


ということで、またまたアースにある国際連合の組織『国際保健機構(WHO)』を見習って『異世界保健機構(AHO)』と命名しました。


今回不幸にも天然痘の被害があった星のように、未だ医療が未発達な星はたくさんあります。


反対に、優れた医療技術を持つ星も加盟星の中には少数ですがあります。


ラスク星のように魔法や魔道具による治療が主体の星もあれば、シンゲン星のように医療技術が発達した星もあるのです。


それらの技術の粋を集めて、未曽有の危機にも迅速に対応できる体制作りが大切ですよね。


ということでランス、頼みますよ。


えっ、医療分野はイリヤの方が詳しいって?


そうでした、ラスク星でもイリヤは医療の発達に貢献していましたね。


じゃあ、AHOはイリヤを総裁にしましょうよ。


そう、それが良いわ。






<<イリヤ視点>>

何が良いんでしょうか。


この前の天然痘の一件で、すっかりハイテンションになってしまったお母様の思い付きでAHOなる組織が出来てしまいました。


お父様やお兄様も、お母様にあのテンションで言われると何ともし難かったみたいです。


もちろんわたしもですけど。


最近のニュースは『ナイチンゲール』を称賛する声でいっぱいです。


『ナイチンゲール』とは、もちろん天然痘の解決に奔走したあの星の王女様達のことですね。


『ナイチンゲール』の命名はゴシップ好きのテレビクルー達です。

アースで伝説となっている看護師から取った名前ですね。


お父様達アース人の皆さんは良く知っておられました。


「ナイチンゲールとは、また上手く持ってきたものだな。


どうせなら赤十字もつくっちゃおうか?」


司令室にいるアース人、正確にはアースから加盟星に転移してきた皆さんですが…、彼等は懐かしそうな顔で物騒なことを言っていますね。


これ以上仕事を増やさないで下さいませね。


でも健康に対する備えって大事ですよね。


わたしもシルビア先生に弟子入りして医学を志したことがありましたから、病気や怪我で苦しむ人達を癒やしてあげられることには、至上の喜びを感じます。


それにナイチンゲールって言う言葉の感じも良いですよね。


何か少し儚げで、わたしに似合っているかも。うふ…


そうそう、ナイチンゲールって別の呼び名では『白衣の天使』とも呼ぶらしいのです。


これも素敵です。


ナイチンゲールに想いを馳せている頃、異世界各星のテレビ局では大騒ぎになっていたみたいなんですけど、全く気が付きませんでしたわ。



イリヤ様、新しく創設される異世界保健機構、通称AHOの総裁に就任される!

イリヤ様、白衣の天使に!



こんなニュースが、異世界中を駆け巡ったのは、お母様が、AHOを思い付きで、わたしに振ってきた当日の夜のことです。


誰がリークしたのでしょうか。


あの時司令室にいた誰かに間違いありません。


ええ、分かってます。


白衣の天使なんて言葉、アース人しか知らないことですからね。


とにかく、反響がもの凄かったです。


各星の王家や上級貴族クラスの子女が、こぞってテレビ局に問合せ、困ったテレビ局からは国際連合事務局にひっきりなしに連絡が入ってきます。


パニック状態の国際連合事務局を見かねて、急遽記者会見が開かれることになりました。


テレビ局各社1名づつに限定したのですが、2万人くらいは集まってしまいました。


急遽記者会見会場をお父様が創った亜空間会議場に切り替えて、会見の始まりです。


最前列にはやはりラスク星の人達ですね。


ラスク星ではわたしのことを医学の神様として祀っている方が多いため仕方ないかもです。


とにかく、記者会見が始まりました。




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