第534話【異世界食糧計画(AFP)4】

<<天然痘から回復した少年ケーン視点>>

始まりは配給日の朝のことだった。


「ケーン、配給を貰いに行くよ。」


「うん、お母さん。」


20件足らずしか無いこの村には、2週間に1度しか配給が来ないんだ。


もちろん、そんなに長持ちする食材は少ないから、パンも半分以上が、カチカチの乾パンだし、肉もほとんどが干し肉だよ。


「ケーンかっ!久しぶりだな。ゴホッゴホッ。


元気にしてたか?


今日は、ちょっとだけど生肉があるぞ。」


「やった~!」


「良かったねケーン。

今日は、久しぶりに焼肉にしようね。」


お母さんもたまに手に入る生肉にテンションが高めだよ。


配給のおじさんはこのエリア5村が担当って言ってた。


僕達の村は一番遠くで、しかも僕の家は、ここから一番遠いから、いつも最後になる。


おじさんは僕達のために、生肉をわざと少しだけ余らせてくれたんだ。


「ありがとう、おじさん。お肉、大切に食べるね。」


「おお、たくさん食べてって言うほど無いけど、皆んなで仲良く分けてな。ゴホッゴホッ」


「あら、風邪なのかい?」


「さあ、ちょっと熱があるからそうかもな。


まあ、今晩寝れば治るさ。」


お母さんとおじさんが立ち話している間、僕の目はお肉に釘付けさ。


「さあ、そろそろ戻らなきゃな。」


「身体に気を付けてね。

じゃあ、また。」


「ああ、また再来週な。」


そう言って、おじさんは馬車で、戻って行ったんだ。




それは、突然のことだった。


朝目覚めると、台所にお母さんの姿が見当たらなかった。


「お母さん?」


お母さんの寝室からうめき声が聞こえてくる。


扉を開けると真っ赤な顔をしたお母さんとお父さんが、布団の中でブルブルと震えてた。


「...ケーンかい。ごめんね、ちょっと熱があるみたいで動けないんだよ。

悪いけど、お医者さん呼んできてくれるかい。」


お母さん達の顔を見ていると僕にだってひどい状況だってことはわかるさ。


「お医者さん呼んでくるよ!」


僕は急いで村の中心にあるお医者さんを呼びに行った。


途中、いつもなら早朝から働いているトムおじさんやヤトおばさんの顔も見なかった。


いつも元気な人達なのに珍しいこともあるもんだなって思いながら、この村唯一のお医者さんの家に辿り着いた。


「ヤムさん、ヤムおじさん、お父さんとお母さんが病気になちゃったんだ。診ておくれよ。」


扉の向こうからは返事がない。


扉を開けると、そこには何人かの村人とヤムおじさんが真っ赤な顔をして倒れていたんだ。


誰かいないかしばらく辺りを探したんだけど、ほとんど人がいない状態だった。


もしかして皆んな倒れてるんじゃ...


嫌な予感がして、友達のレイナちゃんの家に行ってみると、やっぱりおばさんやレイナちゃんも真っ赤な顔だった。


慌てて家に戻り、お母さん達の看病をしようとすると、「うつっちゃだめだからね。」って言われて、一人寂しく干し肉と固いパンを齧っていた。


そして2日ほど経った。


朝早くに起きてお母さん達の様子を見に行くと2人共いなかった。


何処に行ったのかと思っていると台所から包丁を叩く音が聞こえる。


3日前まで毎日聞いていた音。嬉しくなって台所へと走っていった。


「おやケーン、早かったね。風邪をひいちまってごめんね。寂しかっただろ。

いま温かいスープを作ってあげるからね。」


椅子に腰かけているお父さんは未だ少し辛そうだけど、顔色を見る限り熱は引いてそうだ。


朝食を食べ終わるとお父さんは仕事に出かけて行った。


近くにある鉱山で鉱石の採掘をするのがこの村に住む男の仕事。


この辺りは鉱山から流れ出る汚い水のせいで麦も畑も出来ないんだって。


だから配給だけが唯一の食べ物なんだ。



そして翌日、お父さんがまた熱を出した。


無理をしてきつい鉱山の仕事をしたからなんだろう。


「少し休めばまた元気になるさ。」そう言うお父さんの顔や手にブツブツが出来ているのが少し気になったけど、いつも元気なお父さんのことだ、大丈夫だろうと思っていた。


翌日、お母さんにもお父さんと同じような症状が出た。


また真っ赤な顔をしてふたりで寝込んでしまっている。


そうだ、今日は配給の日だ。おじさんに美味しいものを貰いに行かなきゃ。


少し早めにいつもの配給場所へと向かう。


だけど...いつもの時間が過ぎても配給は来なかった。


結局、その日は夕方まで待ってみたけどやっぱり配給は無かったんだ。


翌日、見知らぬおじさん達が家にやって来た。


そして僕達家族は全員別の場所に移動させられたんだ。

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