第524話【対決2】
<<オマル視点>>
ダンジョンの奥深く。そこは強大な魔物が闊歩する危険地帯。
一般の冒険者じゃ足を踏み入れただけで1時間と持たない場所だ。
磁場の関係だろうか、方位磁石は使い物にならなく、深い霧は方向を狂わせる。
人の手が届く位置には食物は無く、運良く魔物に遭遇することが無くとも5日もいれば餓死してしまう不毛の地だ。
俺達S級冒険者だって、油断すればあの世行きの危険な場所は、希少生物の宝庫でもある。
そのため、俺達S級冒険者は、危険を顧みずこの場所に挑むのだ。
深い霧の中を歩くこと数十分。いつも狩りをしていた場所に辿り着く。
別に誰と話したわけでもねえんだが、ここは暗黙の了解で俺専用の狩場だ。
これくらい緊張感のある場所でなきゃ、短期間で魔法の取得なんて出来ねえさ。
俺はマサル青年に言われたようにイメージを練る。
あの時もらった様々な映像は、一端を思い出せば鮮明に頭に拡がるんだ。
例えば空を飛ぶことを想像すれば、風に巻かれて空中に浮き、そのまま風の推進で自在に飛んでいく映像が流れるとか。
風か....
俺は風を手に纏わせるイメージを思い浮かべる。
涼やかに吹く風が手にあたり、手の上下を流線型に流れていくイメージが浮かぶ。
やがて、手の角度を少し変えると流れていったはずの風が手に纏わりつき、やがてそこに小さな渦が出来る。
渦はだんだん大きくなり、俺の右腕は風の渦で覆われ、やがてそれは大きく激しく腕の回りを回転する。
そして腕を上に持ち上げ振り下ろした時、前にある大木へと風の渦が飛んでいき、細木が真ん中あたりで折れた。
「ふうー。今のが...。よし!」
俺は今見たイメージを再現してみる。的にする大木はいくらでもあった。
風が腕に纏わりつくイメージから、腕の回りを回転するイメージへと移行し、回転する風が遠心力で飛んでいかないように外から抑え込むイメージも追加する。
そして右腕には持て余した大きな渦が高速回転しており、それを力任せに一気に目の前の大木に向かって叩きつける。
ズドーーーン!!!
次の瞬間、目の前にあった大木は粉々に砕け散り、そこには土煙が残っているだけだった。
「これが魔法の力か...
こんな危険な力、おいそれと使えねえ。もっと小さく、早く、正確に打ち出せるようにしなきゃな。」
理屈が分かれば、何とかなるもんだ。
それから9日間、俺は魔法の修練に明け暮れたのだった。
<<異世界防衛連合軍 セカンズ常駐部隊隊長 ヤタム視点>>
「隊長!王都上空に巨大な船が現れました。先日現れた船よりも数倍大きな奴です!」
「隊長!巨大船が続々と上空に現れています。視認できただけでも10隻は!」
「隊長!巨大船から大きなスクリーンが現れ、映像が流れています!」
早朝から執務室にいた俺の元へ部下から次々と巨大船来襲の報告が入ってくる。
この前の撃退した異世界の海賊達か!
窓を開けて外を見ると、確かに空に浮かんだスクリーンに映像と音声が流れている。
「セカンズの諸君!早朝から失礼するよ。
先日は我が同胞がお世話になったそうだね。そちらに囚われている同胞を引き取りに来た。
おとなしく渡してもらおうか。
それと、お前達に攻撃された船だが、結構損傷が激しくてね。修理にかなり費用が掛かるんだよ。
その賠償金も頂きたいもんだ。そうだな金貨で1億枚、いや100億枚だ。
すぐに用意しないと攻撃しなくちゃならなくなるなあ。
おれは紳士だから、あんまり手荒な真似はしたくねえんだけどよー、うちには血の気の多い奴らが多くていけねえ。
おい、こら、まだやるんじゃねえ!」
スドーーーーン!!!バーーン!!
「ああ、やっちまったよ。すまねえな、まあ、1日くらいは抑えられるだろけど、それ以上は無理だろうな。
まあ賢明な判断を頼むよ。それじゃあ、返事を待ってるぜ!」
奴らの船から発せられた光の線が王都郊外にある山に当たり、山の上半分が吹き飛んじまいやがった。
なんて威力なんだ! あんなもん王都に発射されたら一瞬で王都は壊滅しちまう。
俺はすぐに王城へと向かった。
既に王城内はパニックになっていた。
やむを得ず、俺は交易ギルドへと向かう。オマル殿に会うためだ。
彼しかいなかった。先日の船を撃退したのも彼だった。
迂闊に降りてきた船に飛び付いた彼が船上で奮戦し、海賊の頭を捉まえたのだ。
残念ながら船自体は逃げられてしまったが、彼の活躍が無ければどうなっていたことか。
交易ギルドに到着すると、俺はオマル殿に面会を求めた。
しかし、彼に会うことは叶わなかった。9日ほど前から行方不明だというではないか。
異世界連合軍本体に助けを求めても、今日明日に到着は難しいだろう。
俺はこの未曽有の危機をどう乗り越えれば良いのだろうか。
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