第506話【キャム、全権大使になる2】

<<リト・グラフ視点>>

「実はな、王よりご下命があり、リトにはアーネストまで行って欲しいのだ。」


「アーネストと言えばあの「冒険者ギルド発祥の地」と言われているダンジョンの街でごさいますか?」


「そうだ、そこでひとりの男と会ってきて欲しい。いいかリト、これから話す内容は極秘事項だ。しっかりと話しを聞いて必ず成功させるのだぞ。


よいな。」


「ユング。後はわたしの方から話すことにしよう。


リトよ、貴殿にはアーネストの冒険者ギルドに行って、キャムという男に会ってきて欲しいのだ。


実はな、先日女神マリス様が我が夢枕に現れてな…、こう仰ったのだ。」


王の話しを要約するとこんな感じだ。


①近々、異なる世界から『国際連合』という組織の使者が来る。

②その使者は国際連合への加盟を要請してくる。

③加盟にあたり、他の異世界と不平等な条約を取り交わさないよう、大使を立てる必要がある。

④その大使候補がアーネストにいるS級冒険者のキャムという男である。

⑤今回はその招聘要請に赴き、キャムという男が本当に信用たる者かを見極めて、大丈夫であれば連れてくること。


女神のお告げとか、にわかには信じがたい話であるのだが、この国に豊穣を齎しているダンジョンの存在にも女神のお告げが関わっていると以前聞いたことがあるし、まして王の命令だ。


それが正しいかどうかなんてどうだって良い。


我ら騎士は命令を実直に遂行するのみだからな。


王都からアーネストまでは馬車で3日。


途中には野盗が出ると言われる森を突き抜ける必要があるため、心強い部下を2人ほど連れて向かうことにした。


当然馬車などは使わず、愛馬に騎乗し駆け続けることで1日足らずの行軍になるはずだった。


はたして、王都をその日の夕刻に出立すると、翌日の昼過ぎにはアーネストに到着した。


その足で冒険者ギルドへと向かう。


「すまないが、こちらにキャム殿は居られるか。」


わたし達の騎士鎧を見た冒険者達が怪訝そうな眼差しをこちらに向けた。


「ああ、居られるよ。キャムさんに用事かい?」


話し言葉はキツくは無いのだが、視線は鋭い壮年の男性冒険者が、返答を返してくれた。


「わたしは王都騎士団副団長のリトというものだ。


王命により、キャム殿に会いに来たのだ。」


王命と聞いて、わたし達を囲む視線が更に強くなる。


あわや一触即発となろうかという緊張感の中、ひとりの女性がその緊張を破った。


「マーシュ!何をしてるんだい。

王都から、それも王命でわざわざ来られたんだから、さっさとキャムさんに取り次がないと、いけないじゃないか!」


「そうは言ってもだな…」


「あんたキャムさんが負けるとでも思ってるのかい。


まあ、この騎士様達も強そうだけどね。


万が一にも遅れをとるキャムさんじゃないよ。


さあ、騎士の皆さん、わたしが、キャムさんに取り次ぎますよ。」


剛毅なおばさん…いや女性の勢いに、先程から鋭い視線を向けてきていた冒険者達の目が泳いている。


「有難い。お願いする」


「あいよ。おーいキャムさん!王都からの騎士様が面会希望だよー!」


女性がギルド内に向かって大声を出すと、それまでの喧騒が嘘のように静まり返り、一番奥にあるバーカウンターまで、人波が分かれ道が開いた。


その一番奥には歳の頃は40歳くらいの男性がいた。


その人物が目的のキャム殿であることは、すぐに分かった。


キャム殿の前まで人垣の間を抜けて進んでいく。


強い!


わたしなんかよりも圧倒的に強者だ。


もしかすると、王都最強と呼ばれる騎士団長よりも強いかもしれないな。


キャム殿はわたし達に柔らかな視線を向けて、慇懃に頭を下げたのだった。


「出立は明後日で良いか」


まるでわたし達が訪ねてきた理由を知っていたかのように、キャム殿は王命に従ってくれた。


しかも、全ての引き継ぎは終わっており、体1つで移動可能だと言うではないか。


彼からの唯一の要望は別れの宴会をするために出立を1日待って欲しいというものだけだった。


彼の了承が得られたら、一度王都に戻り、再度出直す予定であったが、その必要は無かった。


その夜、彼の送別会に冒険者ギルドは人で溢れ返り、ギルド前の道や広場にまで人が溢れていた。


老若男女問わず彼の出立を惜しむ人波は途絶えることがなく、結局翌日の昼過ぎまで宴会は続いたのだった。


「さて、お待たせしました。行きましょうか」


出立の早朝、多くの見送りを背にキャム殿は大きく手を振って、わたし達とともに騎乗の人となった。


「キャムさん、いつでも戻ってきておくれよー。ここがあんたの故郷なんだからねー」


「そうだ!キャムさんはこの街の英雄なんだからねー」



いくつもの温かい言葉を掛けられるキャム殿の顔は、「ちょっとそこまで散歩に行ってくる」みたいな雰囲気に包まれており、これからの大任に対しての気負いなど全く感じさせるものでは無かったのだ。



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