第499話【マサル異世界を創る13】

<<ヤルタ視点>>

監視塔に到着すると、そこは既に廃墟になっていました。


予想通りですが、改めてこちらでの時間経過の速さを実感します。


もう整地をする必要が無いくらいに何も無くなっていますから、そのまま魔導具を使って、新しい監視塔を建てます。


高さ300メートルくらいの塔に入ってエレベータに乗ると、あっという間に最上階の展望台です。


他に高い物があるわけでもなく、1番高い山の上に建てた塔の展望台からは、360度平らに地平線が見えるのでした。


「ここからサーチの魔導具を使えば、人間の行方が追えますね。」


「そうだな。居るとはどうしても思えないんだが、ヤルタ君の気の済むまで監視しようか。」


「すいません、我儘に付き合わせちゃって。」


「大丈夫さ。もしかしたら、良い絵が撮れるかもしれないしな。」


こんな穏やかな会話をしながら、サーチに気配が掛からないかをチェックしています。


2時間程経った頃でしょうか、遥か彼方の森の中に何かが居るとサーチの魔導具が告げました。


検索条件は『知的生命体』に設定してあります。


「猿かな?それとも魔物かな?


確かこの星には黒いラインが入ったカプセルもあったはずだから、特別変異の魔獣かもしれないな。」


そんな推測をしていると、反応が強くなって来ました。


これは人間の集落のように、知的生命体が集まって群れを作っているのと同じような反応です。


そしてどんどん強くなっていくというのは、急速に人が集まっていることを示します。


「ジェイドさん!知的生命体の集落があるようです。

行ってみましょう。」


僕達は隠蔽の魔導具であるコートを羽織り、風の魔導具である飛行艇に乗って、反応のある場所まで向かったんです。




上空1万メートルに到着して、遠眼鏡の魔導具で下を覗きます。


「………………」


そこには小さな街がありました。


街の外で働く大勢の者達が仕事を終えて街に戻る様子が見てとれます。


「ヤルタ君、あれは人間じゃ無いな。」


「そうですね、似てますけど1人1人の反応が大き過ぎますし。


獣人って訳でも無さそうですよね。」


「もしかしたら、魔人って奴か?」


「おそらくは。確かラスク星で見た室長が主人公の劇に出てきた『魔族』って種族かもしれません。」


「魔族だとして、どうしてこの星にいるんだ?」


「あの劇の中で魔族は人が突然変異したとなっていました。


過酷な環境に追いやられた人間が魔族に変異した……って、もしかしたら、何らかの原因でカプセルが勝手に開き、飛び出した人間が、厳しい生存競争の中でより強靭な魔族へと変化したとか。」


「なるほどな。これは良い映像になりそうだ。」


ジェイドさんは、このハブニングにノリノリですが、僕は気が気じゃないです。


カメラの用意をしているジェイドさんを横目に、すぐに室長に連絡しました。


「ヤルタ君か。どうした?」


「し、室長!知的生命体が居たんです!


でも人間じゃ無くて、たぶん魔族だと思います。」


「そうか魔族か。結構いるか?」


「驚かないんですね。」


「あぁ、会ったこともあるしな。


で、どのくらいいる?」


「そうですね、ざっと3000人くらいかと。


街を作って生活しています。」


「そうか、魔族が街を…か。


すぐにそっちへ行くよ」


「やぁ、ヤルタ君、ジェイドさん」


次の瞬間、後ろから室長の声が聞こえました。


「うっ!」


ジェイドさんは驚いていますが、僕達は室長が突然現れることに慣れっこになっていますから今更驚かないですよ。


「あれだね。うーん、確かに魔族だ。


魔人だけじゃ無くって魔獣も居るね。


ここには放射能を持ち込んで無いから、恐らくは自然発生した高濃度放射線の影響で、魔族に進化したんだろうな。


カプセルの落ちた位置が良かったのかもしれない。」


室長はひとりでブツブツ呟いていますが、よく理解出来ません。


「室長、魔族の発生について何かご存知なんですか?」


「あぁ、以前にラスク星で魔族と知り合うことがあったんだが、その時に人間が魔族に進化する過程を知ったんだよ。


当時は瘴気と呼んでいたんだが、どうやら放射能を持った物質が人間を魔族に進化させていたんだ。」


「その放射能っていうのは、どんなものなんですか?」


「何もしなくても、微量ならどこにでもあるモノさ。


ある物質を人工的に状態変化させると発生するんだが、その変化過程で発生する巨大なエネルギーを作るために本当は出したくないのだけれど作られてしまうモノなんだ。


ちなみにラスク星の時はアースからの召喚者が持ち込んだ放射能によって魔族が生まれていたんだよ。」


「でも、ここにはアースからの召喚者は来てませんよね。」


「アースでも今は放射能を出さずにエネルギーを作れるようになったから、もし来ていたとしても最近の召喚者達は、その存在を知らない人も多いよ。


ここの場合は恐らく何らかの原因で自然発生した放射能が原因だろうね。


ほら、この魔導具の針が大きく振れているだろ。


これは放射能測定器という魔導具なんだよ。」


室長の話しは難しくてよく理解出来ませんでしたが、自然発生した魔族であれば、彼らも犠牲者ということでしょうか。


いや、ここには魔族しか居ないので、そんな意識もないでしょうけど。



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