第467話【国際連合支援室7】

<<マサル視点>>


「ランス君の言うことは尤もだし、わたしもここに良く出入りするようになってその気持ちが良くわかるの。


だって、創ったのはわたし達だけど、今じゃわたし達を超えるくらいの立派な思想を持っているし、それを活かすだけの技術力や組織力も持っている。


もう、わたし達が創った異世界人の範疇を大きく超えているもの。


それを理解しているからこそ、その人権を踏みにじろうとするゼロスのことが許せないのよ。


それと異世界の短期的な放棄についてだけど、これには管理局の局長も憂いているの。


これまでは、異世界を創る成功率が異常に小さかったから、皆んな必死にその星を育てようとしたわ。


アルト君達もプロジェクト〇の特別編「アースの誕生秘話」を見たことあるでしょ。

どの星もあんな感じだったのよ。


このラスク星だって、マサルさんを召喚できたおかげで、今では他の異世界のお手本になっているけど、それまではどうしようもないくらいまで追い込まれていたんだから。


でもこうしてラスク星が上手くいったお陰で、異世界創りのノウハウが貯まったし、マサルさんのお陰で、召喚者の教育も上手く回り始めて成功率が40パーセントを超えるところまで行くようになった。


ところが、そうなってくると、良質な異世界を出来るだけ短期間でたくさん作ることが要求され始めたの。


そりゃそうよね。創れるのが当たり前になったら、早く良いものを創れる方が評価されるべきだものね。


それ自体は悪いことじゃないと思うのよ。でもね、それにより悪い効果も出始めたわ。


『とりあえず創って、失敗すれば、とっとと早くやり直せ。』ってね。


成果主義って言って、出来た成果のみを評価するような体質になってしまったのも大きな要因ね。


特にこの前まで運営課長だった人は、総務から来て実際に星を創った事が無かったのよ。


だから、異世界創りの難しさを理解出来ていなかったみたいだから、余計に数字に拘ったのよね。


異世界の成功率が上がるにつれ議会も良質な異世界の数ばかり管理局に求めるようになるし。


局長がかなり抑えてくれるみたいだけど、その風潮は報道番組なんかでも連日放送されているから、運営課のメンバーもそういう雰囲気に呑まれちゃうし。」


言葉を一旦途切れさせて、メイドさんが入れ替えてくれたばかりの熱いダージリンを啜るマリスさん。


「あー、やっぱりここのダージリンは美味しいわね。」


そう言って次の言葉を紡ぐ。


「こうして私達の世界にも無い美味しいお茶を生み出すほど、異世界って発展しているのよね。


それなのに、未だに向こうの連中ったら異世界のことを自分達だけの物だって勘違いしている奴らが多いのよ。


まあ、わたし達の苦労なんて知らないからでしょうけどね。


でも、今回のゼロスの件で、かなり考え方が変わってきているみたい。もちろんまだ管理局の中だけだけど。


成果主義の陣頭に立っていた運営課長は更迭されて、今は局長が運営課長を兼任する形で運営課の全面的な見直しを行いだしたし、わたし達も国際連合支援課としてこっっちとの連携を大手を振って出来るようになったしね。」


マリスさんの言ったように、先日の運営課長が更迭された会議を境に異世界管理局の中でかなり雰囲気が変わって来たのは事実だ。


局長が運営課長兼任になり、イエスマンばかりのリーダーがベテランに替わった。


目標設定も『成功した異世界数』から『異世界の成功率』に変わった。


ただそうなると、ひとつの星に関わる時間が長くなり、全体的な数が減る恐れがある。


そこである程度成長した異世界の成長支援を国際連合に委託することになり、国際連合と運営課の調整を行うための国際連合支援室にマリスさん達精鋭?が送り込まれた次第だ。


「今マリスさんが言ってくれたことがこれまでの経緯だ。


そして、国際連合、国際連合支援室が考えるべきは、『異世界はどうあるべきか』である。


今後運営課の努力で、野良星の数は減少するだろう。


だが0にすることは難しいだろうな。


もちろん、我々が介入することで救える星もあるだろうが、移民等を含めた救済措置も考えておく必要があるだろう。


それと、上手くいっている星にも寿命はある。


物理的な星の寿命もあるが、老成してしまって新しい文明が発生しなくなる場合もあるのだ。


そういった異世界にどう関わっていくのか…


そういったことも考えていかねばならないだろうな。」


「お父様が仰っているのはアースのことですね。」


「そうだな。だが、アースの姿はこのラスク星の将来かも知れないぞ。ランス。」


「そうですね。僕達もいつまでも今の体制を維持出来るか分からないですし。」


「そのために国際連合支援室があるんじゃないの。


たとえ各異世界の指導者が変わったとしても、最良と思える方向に導くのがわたし達の仕事なんだからね。


ねぇマサルさん。」


「シールさんの言うとおりだ。

ランス、全ては日々の積み上げだ。


日々、最良と思われる行動を採るしか無いんだ。


だけど、足元ばかり見ていたら、アースのようになってしまう。


だから長期に渡って俯瞰出来る国際連合支援室があるんだ。」

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