第465話【国際連合支援室5】

<<アルト視点>>

「......テンプレートキットって、召喚者を呼ぶところから始めるようになっているのよ。


恐らく、最初の取っ掛かりで召喚者が何かやらかして、捨てられたんじゃないかしら。」


「「そんな理由で星って捨てられるんですか!!!」」


僕はイリヤさんからの調査報告をうっとりしながら聞いていた。


だってイリヤさんの声って可愛いんだけど、重みがあるっていうか、威厳があるっていうか、従いたくなる声なんだよな。


抑揚がハッキリしているし、でも冷たいわけじゃない。


どちらかというと暖かく包み込んでくれる優しさがある。


だけど、軽くないんだよね。


そんなことを考えながら聞いていたら、ポーラ先輩の発言にランス様やイリヤさんの怒気を含んだ声が聞こえた。


「そんなに怒らないでよお。わたし達だってこれについては憂いているの。


でもね、よく聞いて。このテンプレートキットが出来る前まではほんの僅かしか新しい異世界の開発は成功しなかったの。


ランス君もイリヤちゃんも聞いてると思うけど、もしも、もしもよ、マサルさんがあのタイミングで召喚されていなければ、このラスク星も早々に無くなっていたかもしれないの。


あの時はラスク星は魔素に侵され続けているにも拘らず、それに気付くことも出来ない程度にしか文明が進んでいなかったからだわ。


マサルさんの前にも何人も他の召喚者も呼んだわ。でも駄目だったの。


召喚者によっては、今よりも文明を壊してしまう者もいたしね。


もちろん停滞した文明でもしばらくは星としての体を成すわ。


でもそれじゃあダメなのよ。ごめんね、勝手な言い草だけど、それじゃ、わたし達が作った意味が無いの。


良質な生命エネルギーを生み出せなければいけないのよ。


それがわたし達が星を創り異世界を育てる意味なんだから。」




いつもの軽いノリではない、真剣な眼差しで必死に伝えようとするポーラ先輩の姿に僕は立場の違いというものを感じ取ったんだ。


僕にとってランス様やイリヤさんは、仕事上の付き合いだけでなく、友達になれる存在だと思ってた。


でも違うんだ。ポーラ先輩や僕達はこの世界を創って育てる側で、ランス様達はこの世界の住人だってこと。


そんな当たり前のことを僕は忘れてたんだ。


僕達が野良星って呼んでる異世界の人達もランス様達と同じなんだってことを。




「本当にごめんね。あなた達のお父様はラスク星を救ったの。

そして今は、捨て去られる運命にある星をもなんとか生かそうと頑張っておられるのよ。


それは同情とか、憐れみとかじゃないと思う。

せっかく生み出された生をしっかりと生きて欲しい。それだけだと思うの。


そして全ての異世界人が平和に安心して高い文明水準を維持しながら暮らせる環境を作ろうとしているのよ。


そして今、マサルさんはわたし達の意識すらも変えようとしている。


立場的にはつらい時もあると思うわ。


だけどね、異世界管理局の局長をはじめ、彼を支える多くの仲間がいるの。


わたし達もそう。わたし達の世界での異世界への認識を変えていくべきだと思っている。


そういう意味では今回の一連の騒動は、わたし達に投じられた一石なのよ。」


「....わかりました。ポーラ様、顔を上げて下さい。


お父様がやろうとしていること、これは異世界人から考えるとまさに神の領域のことなんです。


でも、そこから手を付けなければならないとお父様が判断したのなら、僕達は全力でお父様のサポートに回ります。


そして今ポーラ様がおっしゃられた内容を胸に刻み、僕達異世界人でできることをもっと考えて実行したいと思います。


そのための国際連合なんですから。」



「ありがとうランス君。君達の頑張りを国際連合支援室は全力でバックアップするわ!


絶対マサルさんの想いを達成しましょうね。」




僕は涙がこぼれそうになるのを必死に堪えていた。


だって僕は成功率が40パーセントもあるんだから、それで良いんじゃないかって心の中で思ってたんだけど、それじゃダメなんだ。


生み出したものにも命があり、それは僕達と同等なんだってことをもっと真剣に考えなきゃいけなかったんだ。


まだ新人の僕達にできることなんて限られているだろう。

でも何かできるはず。スイムとヤルタと相談しながらそれを探していこう。


今涙を流している場合じゃないんだ。室長の想いが実を結んだ時嬉し涙として流そう。


僕はそう強く心に刻んだ。

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