第447話【ユートピア計画10】

<<マサル視点>>


ゴゴゴゴゴーーーー!!!


サハラ砂漠で出稼ぎに向かう女性達の姿を見て感傷的になっていた俺は、突然の轟音に耳を塞ぐ。


音がする後方を振り替えると、そこには巨大な塵旋風がそそり立っていた。


塵旋風


それは、熱せられた地表から発生した上昇気流が辺りの砂を伴って渦を巻きながら登っていく自然現象。


稀に街中でも発生することはあるが、通常はそれほどの被害をもたらす様なモノでは無いはずだ。


だが今目の前にあるそれは、莫大な砂が巻き上げられて渦を描き、直径50メートル近い砂の塔となっている。


砂漠の暑い上昇気流が渦をより高く大きくしていくのだろうが異常な光景だと思わざるを得ない。


たかが砂だとは思う無かれ。


金属の研磨にも使われる砂の暴風はあらゆる物を削り壊していく。


そして、その細かな粒子の塊は、あらゆる物理攻撃をも受け付けない。


たとえそれが南極の氷を貫くビーム砲であったとしても。



真っ直ぐにこちらに向かってくるその砂の塔は、女性達の列を狙っているかのようだ。


「まずいな。」


俺は軽く飛び上がり、低空飛行のまま塵旋風へと飛び込んだ。


一度呑み込まれれば、全てを削り尽くして何も残さないだろうその自然災害へと飛び込んだ俺は、塔に呑み込まれようとする砂地に潜ることに成功した。


物凄い風の音が頭上に流れたかと思う刹那、俺は周りの砂ごと上空へと舞い上げられる。


高速で浮き上がる体を重力魔法を使ってバランスを取りながら、円の中心地にたどり着くと、氷魔法ブリザードを下に向かって全力で放った。


地表に激突したブリザードはそこで大きく弾け飛び、砂の渦に呑み込まれる。


それを数回繰り返すと、冷やされた地表から発生する上昇気流は勢いを失くし、次第に渦の勢いを弱めながら、やがて俺の身長よりも低くなった砂の塔はそのまま姿を消した。


そして数10メートル先には、幼い子達を囲む様に蹲る女性達の姿があったのだ。


「皆が幸せを感じる幻影が掛かっているはずなのに、こんなことが起こるなんて、まさか!」


バーン!バーン!


今度は爆発音が辺りに鳴り響く。


テロ組織による無差別テロだろう。


「この塵旋風に加えてテロ組織まで。

これは間違いなく、ゼロスの仕業だな。


幻影を切っただけでなく、悪夢を見せているのか!」


彼女達のことは心配だが、根源を断たねば解決することがあり得ない事態に、俺は後ろ髪を引かれながらも、高く飛び上がったのだった。


10分後、幻影の魔道具を見つけ出し破壊したのだが、見下ろした地表では今もテロ活動と塵旋風が容赦なく続いていた。


「ちっ、魔道具はひとつじゃ無かったのか。


魔道具を根こそぎ破壊しなきゃな。」


幻影の魔道具が発生させる微弱な魔力の質は覚えている。


上空に上がり、『ファインダー』魔法を使って地表に向けて発動させる。


半径100キロメートルくらいの範囲を一気に調べていく。


次々と移動しながら調査を進めて行くのだが、思いの外幻影の魔道具は設置されているようだ。


移動しては調査し魔道具を撤去を繰り返す。


既に破壊した魔道具の数は30を超えるが、幻影は収まらない。


次の地点東京へと向かおうとした俺に眩暈が起こる。


「おや、眩暈なんて、疲れてるのかな。」


体力検査の魔道具を取り出し、ステータスを見てみる。


「あれ、魔力がかなり減っているな。あっ、そうか!地球は魔力が薄いんだったな。

だから魔力の補充が出来ていないんだ。


よし、ランスに魔力を送らせよう。」


トランシーバーでランスを呼び出すと、ランスはすぐに反応した。


「お父様、今どちらにおられますか?」


「今アースにいるんだ。こっちでゼロスの幻影の魔道具が多く仕掛けられていてね。

その除去作業をしているんだ。


ランス、悪いけど魔力を送ってくれないか。こっちは魔力が薄くって魔力切れを起こしそうなんだよ。」


「そりゃ大変じゃないですか。今すぐ送りますね。」


ラスク星の送信塔を使えば、ここまで魔力を送ることは難しくないはずだ。


そう思い少し待ってみるが、魔力が送られてくる気配が無い。


「お父様、どうやらアースの大気で送った魔力が霧散されているみたいなんです。」


もしかしてゼロスの仕業?って思ったけど、恐らくこの大気が地球に魔力を留めない原因なのかもしれないな。


「どうしましょうか?」


「そうだ、亜空間を繋げてみようか。前に実験で複数の亜空間を繋いだことがあるんだ。


手順はお父さんの部屋に置いてあるから、それを参考に挑戦してみてくれ。」


「わかりました。」


それから20分後、ランスから連絡があり、無事に俺の亜空間を経由して魔力が送られてくるようになったのだ。

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