第435話【正体判明4】
<<国軍指令次官ハリス視点>>
ジーク兄さん達が来て数日後、ジーク兄さんから連絡があった。先日亡くなったヤンマー・カーチスが最期にゼロスと言ったというのだ。
これで、ゼロスが生きていて今回の一連の騒動を起こしている可能性が高くなった。
異世界管理局としてはマサル君が調査を進めることになったみたいだな。
彼には足取りを追ってもらうこととして、こちらは30年前の事件のその後から追いかけてみることにしよう。
わたしは、当時国軍の調査部にいたシルスさんを訪ねて当時の状況を聞いてみることにした。
既に軍を引退されてご自身の別荘で余生を楽しんでおられたシルスさんであるが、あの当時の話しをすると、一瞬顔をゆがめた後、その時の様子を快く話して下さった。
「あの事件があった時、撲は軍司令部で中将をしていたんだよ。
主に戦略担当でね。とはいっても、他に戦う明確な敵もいなかったからね。
のんびりしたものだったけどね。
そんな時にゼロスが中将として司令部に入って来たんだ。
彼はまだ若かったよ。30歳になってなかったんじゃないかな。
本来なら将校になったばかりくらいの年齢だね。
彼の噂は聞いていたよ。突如研究者の中に現れた彗星で、あらゆる学問に通じており、それぞれの専門学会でも一目置かれる存在だったんだ。
なかでも時空論については、ずば抜けていたらしいよ。
当時は時空論の議論が交わされ始めたばかりでね、定義も曖昧だったんだ。
彼はそれを体系化させて、実際に時空空間魔道具を開発し、その存在を証明したって当時の研究者達を騒然とさせたものさ。
ほら、しばらくして無限エネルギー思想なんて言うのも生まれたじゃないか。
誰だったっけ、あっ、モーリス教授だ、彼が熱心に説いていたやつ。あれもゼロスの時空空間魔道具ありきだったんだからさ。
ただ、少し早すぎたんだよ。あまりにも優秀過ぎる彼を他の先輩研究者達が放っておくはずが無かった。
倫理的なものがどうのこうのと理屈を並べたてて、ゼロスを学会から追放しようとしたんだ。
そして彼は消えた。疎ましかったのだろうね。
そして1年位してから軍で彼の姿を見かけたんだ。
どうやら当時の元帥が時空空間を軍で活用する方法が無いかを模索するために彼を連れてきたらしいんだ。
そして軍でも彼の存在は機密扱いだったよ。
その後、彼は軍費で研究に没頭したんだ。
何を研究しているのかは分からなかったが、とにかく着実に研究は進んでいたよ。
君も知っている通り、軍の活動は国に逐一報告が必要だからね。
彼の研究も続けていられたということはきちんと成果を出していたということさ。
そんなある日、彼が特別小隊を作ることになった。わたしが司令部で彼に会ったのはその時だよ。
特別小隊の隊長と中将昇進の辞令を受け取るために司令部に来たんだ。
痩せて細すぎる身体なのに目だけがギラリとしていてね、死神がいたらあんな感じだろうなって思ったよ。
当時は特別小隊なんて特に珍しいものでも無かった。
専門に特化した小隊ってだけだからね。
だから彼は研究者を中心にメンバーを集めるんだろうなって思ってたんだけど、集められたメンバーを見てびっくりした。
だって各隊でも選りすぐりの鼻つまみ者ばかりだったんだ。
暴力沙汰を起こしてばかりの脳筋ばっかりってとこだな。
皆んな不思議がってたよ。でも各隊の隊長は喜んでたね。問題児が出て行ってくれるんだから。
そんな感じで、ゼロスが何をしようとしているのか、誰も分からなくなったんだよ。
そして、あの事件さ。
まあ、元々いなくなっても良かった者達だしね。誰も追及することは無かったよ。
その頃にはゼロスの存在が大きな組織に包まれていることを誰もが感じていたしね。
でもさすがに、隠し通すことはできなかったよ。
この先は君も良く知っているよね。
それで、その後のゼロスの足取りなんだけど、当時議会で幅を利かせていたウームル議員を覚えているかい。彼の元に身を寄せたまでははっきりしているんだ。
あれだけの事件の張本人だからね、ウームル議員自身が身元保証人になったと議会で言ってたからね。
その後ウームル議員が引退して、そのままゼロスの行方も分からずじまいさ。
ただ、ウームル議員の出身地であるサーゴス地区に何か手掛かりがあるかもね。
ウームル議員は引退後サーゴス地区に戻って、慈善活動を行っていたようで、その時に大勢の取り巻きを連れて行ったって噂だったからね。
僕が知っているのはこのくらいさ。」
「シルスさん、貴重な話し有難うございました。」
「いえいえ、年寄の昔話に付き合わせちゃったね。」
「では、失礼します。お元気で。」
わたしはシルスさんの自宅を後にした。
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