第364話【怪盗スペルチ団4】
<<スペルチ団団長カリナ視点>>
トラファルガを襲ってから数週間後、わたし達は次の獲物を調査していた。
次に狙うのは、最近事業を急拡大させているシベリス商会。
様々な商品を販売する総合商社だが、ヤスハがきな臭い噂を聞いてきた。
どうやら、最近はやりの生命エネルギーカプセルでぼろ儲けしているらしい。
生命エネルギーは、わたし達が暮らすうえで最低限必要なモノであり、基本的には政府より配給されるモノである。
それは政府の機関である異世界管理局が飼育している様々な農場で得られたモノを集めて分配しているのだ。
これまでは需要と供給のバランスを維持するために配給以外で出回ることが無かったのだが、最近では”異世界と呼ばれる農場”での有用な収穫方法が見つかったみたいで供給過剰気味になっているらしい。
そこで数年前に法律が改正され、過剰供給分の生命エネルギーを政府が一部特定業者に販売し、彼らが小売りできるようになった。
生命エネルギーは美容や健康促進にも効果があると言われており、カプセル化して小売りされた生命エネルギーは、金持ちを中心に品薄状態だと聞いている。
「たしかにシベリス商会は政府公認の生命エネルギー小売り指定業者だが、そんなに儲かるというほど量は無いはずだが?」
「ええお頭、おっしゃる通りです。だが生命エネルギーを闇で横流しされているとしたらどうです?」
「なに!そんなことが出来るのか?
いや、わたしの友人にも異世界管理局の者がいるが、そんなことが出来るような抜け道は無いはずだが。」
「わたしもそう聞いていますが、まだ不確かな情報なので何とも言えませんが、あの闇での販売量は確かに異常です。」
「分かった、どちらにしても金庫にはたんまりとお宝が眠っているということは間違いないわけだな。
よし、続けて調べてくれ。わたしも友人の伝手でそれとなく探ってみるよ。」
翌日、わたしはマリスを呼び出した。彼女とは学生時代の級友で、マリスが学内のトラブルに巻き込まれたところを助けてやったのが最初の出会いであり、それから学校の評価が全く正反対のふたりは親しい関係となった。
卒業してから会うのは久しぶりになるのだが。
「カリナ~久しぶり~。元気だった~」
相変わらず間の抜けた奴だな。これで最高学府の首席だったんだから、分からんもんだ。
「それでね~………」
喫茶店に入ると懐かしい彼女の声がマシンガンのように続く。
あれだけ鬱陶しいって言ったのに、結局卒業するまで止まることのなかったその姦しい声も、久しぶりに聞くと心地好く聞こえるんだからおかしなもんだ。
「そうだ、カリナ~、何か話しがあるって言ってなかった?」
懐かしさに半分夢心地で聞いていたわたしは、マリスの問い掛けに本来の目的を思い出す。
「マリス、最近生命エネルギーが盗まれたりしてないか?」
しまった。単刀直入過ぎたか。
突然こんな質問をしたらいくらなんでも怪し過ぎるだろう。
マリスは少し驚いた様子でこちらを見て、ニコッと笑う。
「うーん、それに関しては機密情報だから言えないかなぁ。
でもどうしてそんなこと聞くの?」
「いやね、最近生命エネルギーカプセルが大量に出回っているみたいなんだ。
うちの会社でも扱いたいんだけど出所が分からなくってね。
もしかしたら犯罪絡みかと思ったのさ。」
苦し紛れに適当に言葉を返す。
「そうかあ、ぶつぶつ……ミリアが呼び出した召喚者が何者かに拐われたとか、ぶつぶつ………次元の狭間で無限ループが…
あっ、そろそろいい時間になったわ。
わたし仕事に戻らなきゃ。
ごめんね、カリナ。また会おうね。」
忙しくそれだけ言うと マリスは急いで街に消えて行った。
「アイツ、相変わらずそそっかしい奴だな。
ただ、情報は手に入った。
ハシリやヤスハ達と纏めなきゃな。」
わたしはアジトとなるダミー会社に戻った。
「お頭、良い友達をお持ちですね。」
アジトでハシリ達と机を囲んで情報を交換する。
マリスからの情報をふたりに話すと、ふたりはわたしとマリスの関係を微笑みながら喜んでくれた。
「きっとマリスさんは、お嬢がスペルチ団の団長だって分かってて教えてくれたんだと思いますよ。」
今スペルチ団でわたしのことをお嬢って呼ぶのはこのふたりだけだ。
親父が残してくれた最高の宝物のふたりと共に、親父の遺志を継いでやろう。
でもふたり共マリスを買いかぶり過ぎだよ。
アイツは頭は良いけどド天然だからね。
わたし達の仕事に気付いてるはず無いじゃないか。
<<ヤスハ視点>>
久しぶりにお嬢の楽しそうな声を聞けたな。
父親でもある前のお頭が不慮の怪我で亡くなってから儂らムサイ男所帯を纏めあげるのは大変だったろう。
久しぶりの旧友との再会も良い息抜きになったんじゃないかな。
マリス嬢も昔から変わった娘だと思ってたが、気遣いの出来る良い娘さんになったようだ。
昔はよくここにも遊びに来てたっけ。
タイミング悪く、儂らがスペルチ団だと知られてしまってからも、変わらずお嬢と付き合ってくれた時は本当に嬉しかったな。
お頭の命令でお嬢には黙っていたから、お嬢は知られていないって思ってるみたいだけどね。
まあ懐かしい思い出はさておいて、仕事だ仕事。
お頭やハシリとの報告会でいくつか確認すべき事項が出てきた。
お頭がマリス嬢から聞いていた情報によると、結構大ごとが絡んでる可能性が高いじゃないか。
次元の狭間とか誘拐だとか。
生命エネルギーの横流しなんてことをやろうってんだから、ただごとじゃないことは確かだ。
マリス嬢の情報も少なからず関係しているだろう。
こりゃ気を引き締めていかないと大変なことになりそうだな。
まずはひとつづつ潰していくかな。
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