第315話【昇級試験ラプソディ 3】

<<人事課長視点>>


「それであれば、公安課の仕事自体が減っているということだな。」


「確かに減っているのではないかと思います。

そこで、わたしに提案があります。


大人が読みそうな異世界もの小説を地球の全世界に売り出してみてはどうでしょうか?」


マサル君が本筋から離れた答えを返してきたように思ったので眉を狭めて先を促す。


「突拍子も無いことのように思いますが、続きをお話ししますね。


たしかに召喚者が起こすトラブルについては減少傾向にあると思いますし、解決方法もかなり整理されていますから、今後あまり問題になることは無いと思います。


こちらについてはもう少しマニュアル化を進めることで適切に対応できればと思っています。


ただ、同時に功を焦る運営課の皆さんの行動が不正につながるケースも散見されると思います。


たしかルールでは知的生物の発生以降は過度な介入は禁止することになっていますね。


社会経験のほとんどない召喚者を召喚してしまった場合、恐らく運営課の方々は焦るのではないでしょうか。


それが過度の介入になってしまう恐れはありますよね。


余り表面には出ませんが恐らくそのテクニックは巧妙になってくると思います。


本日のお話しの本質である新しいテストの着目点はこの辺りからの出題が良いかと思います。」


なるほど、確かにその可能性は十分にあるだろう。いや最近の摘発事例も複雑化傾向にあるというから、その通りだろうな。


テスト内容についても焦点を変えていくべくきであろう。


「話しを続けます。


ですから、召還対象は子供よりもできるだけ経験豊かな大人を集める方が良いのですが、今のラノベ中心ではなかなか集めることが難しい。


そこで、大人向けの異世界ものです。できるだけ魔法を避けて、異世界で国を一から作って大成させるサクセスストーリーを実用本のような体裁で作るのです。


そしてそれを地球の日本以外でも配布することで、異世界での成功イメージを持つ人材を育てます。


そして彼等が亡くなった時に一本釣りするのです。


そうすることで、こちら側の要求事項とあちらの経験則がマッチする割合が大幅に高まると思います。


ということで地球で異世界ものの実用書を販売する部署を公安課に作るのはいかがでしょう。


公安課は事後の取り締まりも重要ですが、事前に発生を抑制する部署としても機能させる方が全体的にも効率が良いと思うのですが。」


なるほど、これは驚いた。突拍子もない意見だと思って聞いていたが、いやさてなかなか目に鱗だな。


取り締まりの鬼である公安課がトラブルの予防をするか....


斬新であるが案外いけるんじゃないか。


「マサル君、話しは良く分かった。公安課の次の試験問題作成には力を貸してほしい。


それと、出版の件だが、具体的にどう進めるのが良いだろうか?」


「ええ、まず地球にもこちらの管理局から派遣されている人達がいると聞いています。


彼等に出版社を立ち上げてもらいましょう。


そのあたりの知識については、こちらに転生されている方の何人かが相談にのれると思います。


既にこちらに転生されている人で、出版社の社長だった人や編集者だった人、建物取引や法律に詳しい人を紹介できます。


次に公安課で事務を中心にやっておられる方で今後試験を受けるのが難しい方等を集めて、わたしが説明会を開きます。


彼等が日頃集めて報告書にまとめている各地の情報をまとめていけば書籍の資料としては十分でしょう。


それを書籍化するメリットを訴え、新しい部署への移動を促します。


もちろん、地球で好まれる実用書やラノベなどを集めて売れる書籍にする技術についてもこちらで指導させて頂きます。」


まあよくもスラスラと出てくるものだ。


でも、彼の講師としての人脈は大いに活用できそうだし、何よりもこれから増えてくる公安課の30憶年問題も案外解消するかもな。


「マサル君、よくわかった。その形で進めよう。早速局長に話しをしてくる。


今日はありがとう。」


わたしはその足で局長室へ向かい、OKを取って公安課長室へと急いだ。



<<マリオ視点>>


やはり、駄目だった。


いくら不正が少ないからって、飲み会イベント恒例王様ゲームの罰ゲームに紛れて運営課の職員が介入した隕石追加なんて分かるはずが無いじゃないか!


だが結果は覆らない。


ああ、どうしたものか。この後定年まで冷や飯か?


「マリオ君、今回も残念だったね。あまり気落ちしないようにって言っても無理か。


ところで君に朗報を持ってきたよ。


実は公安課に新チームを立ち上げることになったんだ。そこのリーダーとして君の経験を生かしてみないか?」


課長が持ってきた新しいチームの話しを聞いて俺はその申し出を受け入れたのだった。





「マリオリーダー、新しくベトナムで出版する本はこれでいいでしょうか?」


「ああ、そうだな、ここの表現はこうしてくれ。今までの実績ではベトナム人はこちらの表現を好むようだ。



そうだ、キース君。南アフリカの新規出版社の立ち上げ状況はどうかね。


この前あちらからの転生者が現れただろう。細かいところは相談して上手く進めてね。」


塞翁が馬とはよく言ったものだ。


進級試験に受からなかったからこの仕事を得られた。


もし進級試験に受かっていたとしても俺の性格で成功していたかどうかは分からない。


少なくとも今の仕事には満足できている。


女房や、あちらのお義父さんにも顔が立って一安心したし。


さあ、チェックする原稿が溜まってきたな。仕事頑張るか!



昇級試験ラプソディ編 完





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