第300話【とある星の再生5】

<<村人アレク視点>>


ここに住んで全てが変わった。良い意味でだ。


照りつける熱さに悩まされていたことも今は昔。まだ3カ月くらい前のことだけど。


親父の具合もすっかり良くなって、今では室内栽培の世話を手伝っている。


そのせいか、ボケることも少なくなったようだ。


食事も変わった。


新鮮な野菜がいつでも食べられるようになったり、家畜の乳の出が良くなり、繁殖も増えてきた。


鳥の卵も良くとれるようになったせいか、色鮮やかな食卓になった。


これは女房の野良仕事が減った分、食事を作る時間に余裕が出来たこともあるが、ケンジ君が教えてくれる調理方法によるところが大きいだろう。


女房曰く、調理方法はざっくりとしか分からないみたいだけど絵にかいて教えてくれるし、見たことも無い調理器具も提供してくれるから、なんとなく作れる。 らしい。


とにかく生活は一変した。


まだ外に残した作物があるので俺らが完全に楽になったわけじゃないが、村長の意向もあるし、これ以上の贅沢は毒だと思うので毎日外の畑で汗を流す。


帰ってきてシャワーを浴びるのが毎日の楽しみだ。


日照り続きの中、こんなに水を使う贅沢をして罰が当たらないかが目下の心配だな。



<<村長視点>>


昨日、外の畑仕事をしているアレクが行商人を連れてきた。


いつもは3ケ月おきには来ていたのに、今回は半年ぶりとなる。


村が全滅しているとでも思っていたのだろうか、あまり売り物を持ってきていなかった。


近頃、うちの村のような寒村の多くが食べるものもなく離散しているらしい。


都から最も離れているうちの村もそうなっているに違いないと思っていたらしい。


村の変わりように目を丸くする行商人。


いつもなら高い値で傷みかけの商品を売りつける彼が、今日はもみ手を繰り返して野菜を売って下さいと頼み込んでいる。


この旱魃はかなり広範囲に拡がっているようでどこでも食糧難に喘いでいるようだ。


いくらか売ってやるが、その代わりここのことは言うなと約束させる。


別に独り占めして隠したいわけじゃない。言いふらされると一気にあちこちの村から人が集まってきて争いが起こることが火を見るよりも明らかだからだ。


行商人は必ず守ると俺と約束を交わし、たくさんの野菜をロバに積んでほくほく顔で戻っていった。



はたして2ケ月後、比較的近隣のいくつかの村の村長がここにやって来た。


野菜を持った行商人を締め上げたらしい。


行商人には可哀そうなことをしたが、そうなることくらい本人も分かっていただろう。


しかし困ったことになった。


全く知らない仲でもない3人の村長に頭を下げられると断り切れない。


どうしたものかと腕組みをしているとケンジ君がやって来た。



「ああ、大丈夫ですよ。隣りに同じようなビルを立てましょう。同じビルよりも別の方が喧嘩しなくていいですよね。」


こともなげに言うケンジ君は、わたし達を連れて外に出ると、「この辺りでいいかな」と言いながら何かをつぶやく。


すると、地面から生えるかのようにビルが起き上がってきて見る見るうちに同じ高さになった。


一息ついてから少し移動し新しいビルを起こすケンジ君。


30分ほどで新しいビルが3つ完成した。



「とりあえず中はこちらのビルと同じにしておきました。足りない住居とかは後で追加しましょう。」


わたしもビルが建つのは初めて見たが、来たばかりの3人の村長は驚きのあまり硬直してしまっている。


わたしが肩を叩くと我に返ってケンジ君の前にひれ伏した。



1週間後、3つの村は着の身着のままではあるが無事に引っ越しを終え、しばらくの食料はうちの村で分けることとして、新しい住人が増えたのだった。





<<ケンジ視点>>


思った通り、人口が増えていく。


これぞ俺の思い描いていた異世界生活だと、ひとりで満足している。


引っ越してきた村の数だけ用意したビルの数は既に30棟を超え、住民の数は1500人ほどになる。


近頃は都の方からも人が流れてきており、現在新しい商業ビル群を建設中だ。と言っても昨日から始めたばかりだけど。


そちらの方は既に1000人を超え、近いうちには全体で5000人くらいになるのではと予想している。




人が集まると盗賊がやってくるのは当たり前。


何度も襲われているが、ビル群の周りに作った強大な城壁に遮られ侵入されたことはない。


いや城壁を作る前に何度かビルまでたどり着かれたが、セキュリティがかかっていて中に入れなかったようだ。


逆に1階のロビーで閉じ込められて、一網打尽にしたこともあった。


ただ毎回それじゃ面倒なので城壁で囲ったわけだ。


各村の若者や都から流れてきた兵士などに警備をお願いしている。



この星に来た時に女神様と約束した「この星の近代化」に一歩づつ進んでいることに満足している今日この頃なのだ。



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いつもお読み頂きありがとうございます。


好評連載中の拙著「100年生きられなきゃ異世界やり直し」とその続編である「100年生きられなきゃ異世界やり直し2」もお楽しみ頂ければ幸いです。


よろしくお願いいたします。

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