第298話【とある星の再生3】
<<ムーアの父親、村長視点>>
仲間を率いて遊びに行っていたはずのムーアがひとりで帰って来た。
いや後ろには最近この村に現れたケンジとかいう若者がいるな。
「親父。ちょっと一緒に来てくれないか。
ケンジがとんでもない物を作ったから見て欲しいんだ。」
「何だ、そのとんでもない物とは?」
「デッかい塔だよ。ほら、あそこに見えるだろ。」
さっき隣村から帰って来たばかりで、全く気が付かなかったが、たしかに遠くに塔が見える。
ただ高すぎて上の方は雲に隠れているようだ。
どうやら村の民達は気付いていたようでこちらに数人が近づいて来た。
「村長!あれはいったい何だね?」
広場に集まって騒然としている民を代表して、猟師のヤンマが聞いてくる。
「ヤンマか、ムーアが事情を知っているようだ。
一緒に聞いてみよう。
ムーア、ケンジ君、説明を頼むよ。」
「おーい、皆んな!村長が説明してくれるぞー。
こっちへ集まれー。」
村の民達がわたしの前に集まってくる。
「じゃあ、俺から話しますね。
あれはビルって言うものです。
朝から俺が作りました。」
周りが騒然とする。
当然だ。ケンジ君はまだ14歳。
もうすぐ成人するとは言っても、未だムーアと同じ子供である。
その彼があの巨大な塔を作ったなんて、とてもじゃ無いが信じられない。
「ムーア、ケンジ君、お前達の言うことは分かった。
だが一度わしも見てみぬことにはなんとも言えんな。」
30分後、ケンジ君に案内されてたどり着いたのは巨大な壁の前だった。
「ほー!なんなんじゃこれは?」
「これがビルです。
こちらの中に村を新たに作ります。っていうかもう作ってありますので見てもらっても良いですか?」
「親父、とりあえず確認してくれよ。とにかく凄いんだよ!」
見たことも無い高い塔と光り輝く何か分からない素材に戸惑うわたしを見かねて、興奮気味なムーアに背中を押されたわたしはビルの入口へと連れていかれた。
「親父、ここで一旦止まるんだ。
よく見てろよ。」
自動扉から少し離れた場所で立ち止まって振り向くムーアの顔には悪戯っ子のそれが表れている。
戸惑いつつも頷くしかあるまい。
息子のムーアの前にはキラキラと輝く壁があり、その先には年配の男がいる。
「ムーア、だ、大丈夫なのか?」
誰なんだあの男は。
「あんなところに村長のそっくりさんがいるぞ。」
付いてきた村人の声に村長が振り向く。
なに?俺そっくりだと!
分かったぞ!あれは鏡だな。
前に王都に行った際に教会で見たやつだ。
しかしあれは途方も無い値段だと聞いたが。
たしか教会にあった物も手のひらよりも少し大きなくらいだったが、王子様の戴冠式に王家から贈られたものだと、司祭が自慢しとったくらいだ。
しかし、ここにあるのは途方もなく巨大だ。
いったい幾らするのだ!!
ムーアが1歩踏み出すと、鏡が真ん中で開いて、中に空間が生まれた。
躊躇いなくムーアが中に入り、こちらに振り返る。
「何してるんだよう、こっちだよ。」
悪戯ぽく笑うムーアに少しイラッとするが、あいつが入った以上ここで躊躇うことは出来ない。
皆が見ているのだ。
一呼吸おいて一気に駆け込む。
バン!!
い、痛い。
知らぬ間に鏡が閉じていたようだ。
やはり油断すべきではない。
鏡を睨みつけていると、うっすら見えているムーアが大笑いしている。
「村長、大丈夫ですか?
ここからゆっくり進んで下さい。
俺が先に立ちますから、付いて来て下さいね。」
前を行くケンジ君の後を付いて行くと、鏡は勝手に開いて、わたし達は中に進むことが出来た。
「さあ皆さんこちらですよ。」
ケンジ君の案内で別の小さな部屋に入ると、急に浮揚感に見舞われる。
思わず声を上げようとしたが、同行した若い者が先に声を上げたので我慢する。
村長の威厳を守るのも一苦労だな。
焦る気持ちをどうにか抑えてしばらくすると、チーンという音と共に浮揚感が治まった。
目の前の扉が開くと、そこには神の国のごとき光景が広がっていた。
<<ケンジ視点>>
村長達を屋上に案内した。
エレベータが着くなり大きなどよめきが沸き立つ。
神の国だ…誰かが呟くとそれに感化されたのか、皆さんがその場にひれ伏したんだよ。
俺が慌ててると無情にも時間切れの扉が閉じる。
その光景に、皆さんプチパニックとなり、更にカオスに。
慌てて開くボタンを押して、ムーアと共に皆さんを屋上へと押し出した。
ここは地上800メートルの世界。
エレベータから出ただけだと、空の青さしか見えない。
しかも砂漠の一部であるこの一帯には、オアシスもなく、水の確保が何よりも重要なのだが、目の前には豊富に水を湛えたプールがある。
たしかに彼らから見たら神の国かも。
「さあ、皆さんの新しい村に案内しましょう。」
村長以下村人達の反応を見たケンジはすっかり有頂天になっている。
村がここに引っ越してくることを確証し、疑いもしない。
それはムーア達も同じこと。
いつもは子供扱いばかりされている自分達が、ここでは大人達よりもよく知っている。
その優越感は子供達を有頂天にさせるのに十分だった。
「親父、なにボケッとしてるんだよ。
次は村を見に行くぞ。」
ムーアの言葉に村長達もおずおずとついて行ったのだ。
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