第279話【人工衛星を打ち上げる】

<<ランス視点>>

「リズ、ランス、イリヤ、ちょっと来てくれるかい。」


お父様に書斎に呼ばれた。


今日は、おじ様達や、アニスさんと打ち合わせしているはずなんだけど。


書斎に着くと、いきなり図面を見せられた。


「リズ、ランス、イリヤ、早急にこれを1000個作ることになったんだ。


協力してくれるかい?」


「「「はい!」」」


「じゃあ、リズ。今回は粘土を焼いた陶器で本体を作りたいんだ。

陶器なら生成も簡単だし、最悪回収しなくても済むからね。


材料となる粘土を集めてくれるかい。10トンほどあれば足りると思うんだ。

各国の王にはお願いしてあるから、その取りまとめをお願いしたいんだ。」


「わかりました。早速手配を始めます。」


「ランスとイリヤはお父さんと一緒に人工衛星作りだ。」


「わかりました。ところで人工衛星って何ですか?」


「ランス、人工衛星って言うのは空の上、地上10キロメートルくらいの位置に浮かべた魔道具で、そこに魔力探索の魔方陣を描いておくんだ。


その人工衛星を等間隔で1000個ほど浮かべておくと概ね世界全体をカバーできる大きな魔力探知機になる。


特定の波長の魔力探知できた人工衛星が探知している範囲を判断して、その魔力の発生源を特定するんだ。」


「お父様、この星って1日に1回転してるのですよね。地上10キロメートルの高いところに浮かべたその魔道具は、探索する位置が変わるのではありませんか?」


「イリヤ、よく勉強しているね。確かにこの星は1日に1回回転しているから、地上から離れるほど重力が弱くなって、その分地上からずれていくんだ。


だから、人工衛星には地上の探索域を外れないように一定の推進力を与えるんだよ。」


「でもそれって結構魔力の消費が高そう。」


「ランス、そうだね。だから今回は太陽光を魔力に変換する魔方陣も一緒に組み込むんだ。」


「「「えええええっ!太陽光から魔力を作るう~~~~~?」」」


「そ、そんなことが出来たら、この世の中の仕組みが全て変わってしまうほどの一大事ですぞ!!!」


ネクターおじ様が慌てるのもよく分かります。


この世界では、魔力を持つ人自体が少ないので、魔道具を動かすための魔石に魔力を充てんすることが非常に高価です。


そのため、便利な魔道具を作っても、一部の魔力持ちかお金持ちにしか買ってもらえないのです。


ところが太陽光が魔力に変換できるのであれば、魔石への充電は無料でいくらでも出来るため、魔道具を一般の家庭まで浸透させることが可能です。


そうなれば、文化レベルが一気に上がっていくでしょう。



「まあ皆さん、ほらランスもイリヤも。


とりあえず今後のことは置いておいて今の窮地に備えましょう。」


「しかし、もし人工衛星が落ちて、その魔方陣を悪用されたら……」


「レイン様、そのための陶器ですよ。高さ10キロメートルから落ちたら、陶器なんて粉々で破片も残りません。


しばらくしたら風化して無くなりますし。」



「まあ、それなら大丈夫か。作るのもマサル殿と子息だけだからなあ。」



「じゃあ、早速始めますね。皆さんは見ない方が良いんじゃないでしょうか。」


「そうだな、儂等は退散するとしようか。マサル殿、何かあればすぐに言ってくれ。なんでもすぐに協力するからのお。」


「ガード様、ありがとうございます。では急いで準備を始めます。」




こうして僕達の人工衛星作りが始まったんだ。



「まずお父さんがひな型を作るから、それを真似して作ってくれるかい。 生成!!」


お父様が錬金魔法を使って粘土で球体を形作っていきます。


「そしてこの中に魔石を一ついれてっと。」


作りかけの陶器の球体に魔石を入れると、魔石の入ったきれいな球体が完成です。


「あの魔石には探索魔法と魔力変換の魔方陣が刻まれているんだ。


陶器の一部は薄くしてあるので、程よい太陽光が中に届くように調整しているんだ。


あまり直接太陽光を吸収させると、魔石が持たないからね。


魔石に刻むの術式はこれだよ。


これをこの魔石に刻んでいく作業から始めようか。」


お父様は大量の魔石を亜空間バッグから取り出して、机の上の並べました。


それから僕達3人で3日かけて魔石の制作を行い、その後5日かけて陶器の球体を作成、魔石を埋め込みました。




「やっと完成したか。お父さんひとりだったら大変だったよ。ありがとうな、ランス、イリヤ。


あとリズ、粘土集めご苦労様。品質が均一化されていてとっても作り易かったよ。ありがとう。」


「「僕(わたし)達こそ、お父様と一緒にこの危機を救えるなんて、うれしいです。」」


「よし、じゃあ早速打ち上げよう。


とにかく10キロメートル上空まで飛ばせば、その最高位置で魔方陣が発動して適当な位置固定されるようになっているからね。


皆んな、風魔法で10キロまで投げ飛ばそう。」


5時間後、人工衛星は無事に世界中をカバーするように軌道に乗り、お父様の持つ『魔力探知盤』に探知している範囲の地図が浮かび上がりました。


「よし、これで探知の準備は完了だ。


うん? 早速探知に引っかかっているところがあるぞ。


トカーイ帝国西沿岸の海底だ。すぐに行こう。」


早速飛んでいくお父様に、僕とイリヤは慌てて追いかけるのでした。

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