第226話 【竜族の長】
<<マサル視点>>
「トントン」
執務室で書類と格闘していると、扉を叩く音がした。
ドアをサイキックで開けると、冒険者の女性が立っていた。
確かサリという名のエルフの血を継ぐ弓使いだったな。
「サリさん、どうかしましたか?」
サリは一瞬きょとんとした顔を見せたが、すぐに立ち直り俺に報告する。
「マサル様、ダンジョンの55階層目に竜族の長と名乗る少女が居ました。
今ナルンが対応しておりますが、ナルンからマサル様にお越し頂きたいと伝言をお持ち致しました。」
よく聞けばその竜族の長と名乗る少女は、2500年前からそこにいるらしい。
俺はすぐに席を立ち、サリを伴ってダンジョンの55階層に向かった。
55階層に着くとナルンと少女が話していた。
ナルンが気配に気付いて、こちらを振り向く。
「竜族の長、今我等の長が参りました。
マサル様、こちらが竜族の長様です。」
「マサルです。我等が竜族の長様の眠りを覚ましましたでしょうか?」
「セイルじゃ。いやしばらく前に起きて暇にしておったから、なんの問題も無いのじゃ。
それより、人間は2500年前に亡んだと思っておったが、そうでは無かったのか?」
「ええ、わたしもあまり詳しくは存じておりませんが、確かに発達した文明が2500年前に亡んだのは間違いありません。
ただ、別の地で生き続けてきた者達がいたのです。」
俺はキンコー王国の王都近くにある丘陵地帯でナージャが見つけた洞窟の話とマリス様から聞いている話しを総合して、2500年前にこの世界に召喚された地球人が核を持ち込み、それが元で当時の文明が失われたのではないかとの推論を話した。
「なかなか面白い話しじゃな。
ところでナージャは元気にしておったかのお。
あれはわしの孫なのじゃ。」
「……………… ナージャは元気でしたよ。
たぶんまだ、キンコー王国にいるのではないでしょうか。」
「そうかそうか。
しかしナージャは、プラークの街を守っておったはずだが、その事に気付かんじゃったのだろうかのぉ。」
「ナージャは魔族に眠らされていたみたいで、起きたのは15年ほど前ですね。」
「ナージャが寝ていたと!
まぁあいつは昔から寝坊助じゃったからのぉ。しようがあるまい。
その魔族とか言うのは何者じゃ。」
「はい、恐らく放射線廃棄物から出た有害な物質のせいで変異した人間だと思われます。」
「なるほど、確かに魔素の濃いところでは、なにかの拍子に変異することは良くあるからなぁ、あながち間違えてはいまい。」
「ところでセイル様、わたし達はこれからもここを進んで行きたいと思っているのですが、問題ないでしょうか?」
「全く問題ない。わしはたまたまここにおるだけじゃ。
マサルとやら、お前なかなか面白い。
ここも飽きたしのぉ、わしはお前の家に付いて行くのじゃ。」
………………
こうして、何故かセイル様はウチに住み着く事になったのだ。
<<イリヤ視点>>
シルビア先生との薬草採取が終わり家に帰って来ると、知らない女の子がリビングのソファーに座っていました。
「お帰り、君はマサル殿の娘子じゃな。」
お父様の知り合いみたい。
歳は近そうだけど、丁寧に挨拶しておこう。
「初めまして、娘のイリヤと申します。」
「ほぉー、これはしっかりしたお子じゃ。
我が名はセイルと言う。しばらくこの家に厄介になるから、よろしくのぉ、イリヤ殿。」
「こちらこそ、よろしくお願いしますね。」
セイルちゃんて言うんだ。
ちょっと言葉使いは変わっているけど、仲良くなれそう。
それからセイルちゃんとしばらくおしゃべりをしていると、お父様がリビングにやって来た。
「イリヤ帰ってたんだね、お帰り。」
「お父様、ただいま。今セイルちゃんとお話ししてたんだ。」
「おお、マサル殿。イリヤ殿は利発な良い子じゃな。我は気に入ったぞ。」
「セイルちゃん、わたしのことはイリヤって呼んで。『殿』ってなんか、堅苦しいもの。」
「おお、そうか、じゃあ我も『イリヤちゃん』と呼ばせてもらうとするぞ。
マサル殿も『マサルちゃん』が良いか?」
「いえ、わたしは体裁もあるので一応『殿』でお願いします。」
「人間の呼称は難しいものだの。」
「そんなに難しくないよ。大人の男の人には『殿』、大人の女の人には『さん』、子供の男の子には『君』子供の女の子には『ちゃん』で大丈夫だと思う。」
「我から見ると、全員『君』と『ちゃん』じゃがな。」
何かおかしいんだけど。
わたしがお父様の顔を見て、不思議そうにしていると、お父様はそれに気付いて教えてくれたんだ。
「イリヤ、セイル殿は、『竜族の長』なんだよ。
前に遠足でスタンピードがあっただろ。あの時に竜のナージャのことを話したのを覚えているかい?
セイル殿は、そのナージャのお祖母様なんだよ。」
なあんだ、ナージャさんのお祖母様なんだ…って、えーーーーー
「セイルちゃん、いやセイル様は竜なんですか?」
「そうじゃが、イリヤちゃん、我のことはセイルちゃんで良いぞ。この呼び方は気に入ったからのお。」
「はあ…、それじゃセイルちゃんて呼ばせて頂きますね。」
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