第223話 【ダンジョンはお宝の山だった】

<<ヤング視点>>

マサル様からダンジョンからでた様々な物資や食材をカトウ運輸で一括買取出来ないか打診があった。


カトウ運輸としては、全く問題無いどころか、ありがたいのだが、他の商会との軋轢が心配だ。


早速マサル共和国に拠点を置く商会の代表者を集めた。


「皆さん、本日はお忙しい中、お集まり頂きありがとうございます。」


50人ほど集まった会議室で、わたしは話しを進めていく。


「皆さんも既にお聞きになっていると思いますが、この国にもダンジョンが見つかりました。


冒険者ギルドが、早速調査を始めましたが、かなりの難易度だそうです。」


皆さんの驚きの声が聞こえる。


「冒険者ギルドでは、マサル様やランス様に同行を求めた上で、毎回100人規模の調査隊で、ダンジョンに挑んでいるようです。」


「100人規模!」

「英雄マサル様まで!」


どよめきが広がる。


「皆さん、お静かにお願いします。


今のところ、8階層まで攻略済みと聞いています。


参加している冒険者達は、マサル様やランス様から特別な訓練を受けたとのことで、元々Bランク以上の冒険者達だったところに、さらにかなりの実力をつけているようです。


逆に言えば、そのくらいの力が無いとこのダンジョンには入れないとも言えます。」


皆さん、腕組みをしながら唸っている。


「当然これほどのダンジョンですから、そこから出てくる物資や食材は高級なものになります。


そうなると、それを目当てに外国からの冒険者が無謀に入りこんだり、それを目当ての商会が無茶をすることが予想され、冒険者ギルドも懸念しています。


そこで冒険者ギルドからマサル様に、ダンジョン入り口の侵入制限と、カトウ運輸への一括買取りについて打診があったそうです。」


またどよめきが広がる。


恐らく皆さん、期待されていたんだと思います。


「それでカトウ運輸はどうされるのですか?」


トカーイ帝国に本店を置く大商会の支店長が質問する。


皆さんの視点がわたしに集まる。


「マサル様からの要請と言うこともありますが、無駄な死者を出さないことや出てきたものの価格高騰等考えた場合、断ることは出来ません。


マサル様もそれを懸念されており、わたしに指示がきております。


ひとつ目は、国内の流通についてです。


国内では、カトウ運輸は小売はしません。


皆さんのところに適切な価格で卸させて頂こうと思います。


販売価格についてはそちらで決めて頂いて結構です。


特に稀少な物については皆さんに限定した定期オークションにて出品したいと思います。


ふたつ目は海外への輸出についてです。


これもカトウ運輸の各物流センターから卸させて頂きます。


但し、地域によって偏りが考えられますので、国外に置いてはカトウ運輸の直営店にで国内で販売される価格を考慮して、販売しようと思います。」


「国内で仕入れた物をわたしどもの国外店舗に持って行くことは可能でしょうか?」


「問題ありません。

但し、カトウ運輸の直営店は国内価格よりも少し高いくらいの価格設定にするつもりですから、価格を釣り上げることは難しいと思いますよ。」


ハローマ王国に本店を置く商会の支店長は、大きな諦めのため息をついた。


大きな商会の代表達は、一様に落胆している。


本店からいろいろと言われているのであろう。


逆に小さい商会の代表達は喜んでいる。


「大手商会の方々は、これは国策によるものと本店に説明して頂いて結構です。


まぁ、価格競争無しで販売出来るということで、ご了承頂ければと思います。


その代わり卸値は、頑張らせて頂きますよ。」


大商会の本店宛にマサル様と冒険者ギルド、カトウ運輸の連名で今回の処置についての通達書を出すことで、皆さんには納得して頂いた。


その3日後から、ダンジョンから採れた物資や食材が各商会に卸させて頂いた。


初めての放出されるということもあり、各国から購入に訪れる者達も多く、国内販売だけで即日完売してしまった。


特に蜂の魔物から採れる蜜は、体力増進の秘薬として、高値で取引されたという。




<<とある小規模商会の店主視点>>

わたしはとある中規模の商会で雇われ店主をしていましたが、このマサル共和国建国の話しを聞いて、この国で独立することにしました。


同じような境遇の者達も多く、皆既得権の少ない新天地に期待していたのです。


ところが、来てみると目抜き通りには大商会の支店が並び、その片隅に我々の店がひっそりと立ち並ぶ。


観光客も多く訪れるが、大商会に客が集まり、なかなか我々の店には顔を出してもらえない。


考えてみれば、我々個人が移民してから店舗を作るのに比べ、大商会はその資金力にものを言わせ、店舗設置の先手を打ってくるのは当然だろう。


ただ我々も黙って負けを認める訳にはいかない。


大商会が手を出さないニッチな商品を扱ったり、農家とタイアップして地元野菜を販売したりと、それなりの売り上げを確保している。




今日、あの巨大商会のカトウ運輸のヤング様から呼び出しがあり、最近発掘が始まったダンジョンについての話しがあった。


ダンジョンから採れる物資や食材の取引に関する話である。


冒険者ギルドから卸される商材については、大量に安定して買い取りされるのが常で、我々が扱えるとは思っていなかったのだが、この国では平等に卸してもらえるらしい。




最初の商品が入荷した。


イノシシの肉や内臓は品質も良く、大量に入荷出来た。


他国で偶に市場に出るイノシシ肉と遜色がない、いやそれ以上かもしれない。


そんな物が販売されたのだから、一瞬で、売り切れてしまった。


だが本当に驚いたのは、蜂の魔物から採取された蜂蜜である。


体力増進の秘薬として人気がある商品だ。


あの芳香な香り、甘過ぎず充分な旨味を含んだ深みのある味、これは最高級の甘味としても、高値で取引された。


取り扱うには、仕入れ金額が大きくなってしまうが、それだけの価値があるんだ。


男なら勝負の時だろう。


この国であれば、俺達にも頑張れる基盤があるだろう。


よし、頑張るぞ。

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