第186話 【スパニの動乱2】

<<傭兵部隊隊長ライチ視点>>

どのくらいこの土壁を掘っているだろう。


20人がかりで何時間も掘り続けているのに全く開く気配が無い。


とにかく硬い。


既に半分の部下はぶっ倒れている。


いったいどうなっているんだ。


交代で休憩しながらもなんとか掘り進めるが、もう疲労も限界にきていた。



どのくらいの時間が経ったのだろう。

疲労困憊で諦めかけた時、目の前の土壁から灯りが見えた。


「おおおお、あ、空いたぞ!

もう少しだ。皆んな頑張れ!!」


皆に檄を飛ばす。


休憩にしていた者達も集まって、一心不乱に掘る。


明かりがだんだん大きくなり、遂に目の前が開けた時、俺はそこに見えた光景に驚愕したのだった。




<<イリヤ視点>>

お兄ちゃんが山賊達を追って行って小1時間が経った頃、お兄ちゃんから念話が届いた。


「イリヤ、山賊のアジトを見つけたよ。


今アジトの入り口を土壁で塞いだんだ。


僕は山賊達が逃げないように、ここで見張っているから、警備隊を呼んできてよ。」


「わかったわ。お兄ちゃんがいない間にカチアさんから事情を聞いたの。

あっ、カチヤさんって、さっき助けた女の人ね。

かなり厄介な事情だから、ちょっと時間がかかるかも。


お父様にも連絡をとって、協力してもらうわ。


お兄ちゃん、時間掛かっても大丈夫?」


「大丈夫だよ。ポーチ型収納魔道具に、簡易ハウスと大量の料理を入れてあるから。


何日でも大丈夫だよ。」


「???

お兄ちゃん、いつもそんなもの入れてるの?」


「だって、どんなことがあるか分からないじゃない。」


「まぁ滅多にないけどね。

とにかく、早く連れて来るわね。」


わたしはトランシーバーでお父様にことの次第を説明しました。


お父様はしばらく考え、ここに来てくれることになりました。


すぐにやって来たお父様に、カチアさんは驚いています。


「イリヤお待たせ。

そちらがカチアさんかい?」


「はい、カチア・バァイフです。初めまして、よろしくお願いします。」


「こちらこそ。

カチアさん、イリヤから話しは聞かせてもらった。


大変だったね。それで、スパニで話しが出来そうな人に当てはあるかい?」


「はい、宰相のハリー様であれば大丈夫だと思います。


わたしも以前面識がありますし。」


「分かりました。では宰相様に会いに行きましょう。」


「ところでイリヤ、ランスの姿が見えないが?」


「お兄ちゃんなら、カチアさんを襲った山賊達を洞窟に閉じ込めているよ。」


「じゃあ、そちらを先にするべきかな。」


「お兄ちゃんなら大丈夫だよ。

簡易ハウスと大量の料理を持っているみたいだから。」


「まぁ大丈夫か。ロンドーから兵を出してもらっておくかな。」


そう言うとお父様はトランシーバーで、アーク陛下に派兵を頼んでいました。


「さあカチアさん、行きましょうか。

わたしに掴まって下さいね。」


お父様はカチアさんとわたしを抱えるようにして体の周りに風魔法と浮遊魔法を纏います。


柔らかな風が全身を包むと、3人の体がふわっと浮き上がりました。


柔らかい風の外には強い竜巻が渦巻いて、わたし達をスパニまで運んでくれました。




<<スパニ宰相ハリー視点>>

「ハリー様、お客様がお見えですが。」


自宅の執務室で他国の資料を確認していたわたしの元へ、執事が来客を告げて来た。


「はて、こんな時間に予定が入っていたかな?」


「いえ、約束無しで来られたようです。


ジャボ大陸のカトウ様とおっしゃっておられます。」


ジャボ大陸のカトウ?


あっ、シリーが確か3国の発展にはジャボ大陸が関与していると言っていたな。


大きな商会が関与しているとも。


確かカトウ運輸……!


「すぐに会うので、応接室に案内を。


それと、私兵部隊長を同席させてくれるか。」


「かしこまりました。」


わたしはこれまで集めた3国に対する調査資料を読み返してから、応接室に向かった。




応接室に入ると、見慣れない容姿の親子らしい2人と、どこか見覚えのある白狼の獣人の女性が待っていた。


「お待たせ致しました。

わたしがハリー・ボートです。」


「初めまして。ジャボ大陸キンコー王国で公爵位を賜っておりますマサル・カトウです。


こちらの大陸では、カトウ運輸の会頭と言った方が有名みたいですが。」


やはりカトウ運輸の者だったか。


「隣りに居るのは娘のイリヤ、その隣りの女性は、イリヤが先ほどロンドーの国境近くの森で保護したカチアさんです。」


「カチア・バァイフです。ハリー様、ご無沙汰致しております。」


見覚えがあると思ったらバァイフ家のご令嬢だったか。


「カチア嬢、バァイフ家は先日大規模な山賊達に襲われ……」


「……その通りです。突然の襲撃でなす術もなく。


お父様はわたしを逃すために……」


言葉に詰まるカチア嬢に掛ける言葉が出てこない。


「続きはわたしからお話しします。


わたしはロンドーの国境付近を兄と2人で歩いていました。


近くで女の人の悲鳴が聞こえたのでそこに行くと、15 、6人の男達がカチアさんに襲いかかっているところでした。


兄と2人で男達を撃退し、カチアさんを保護したのです。


兄はわざと逃した男達を追って男達のアジトを見つけました。


お父様に連絡すると、ロンドーのアーク陛下に連絡を取って兵を派遣してもらいました。


今頃はロンドーの兵によって捕まっていると思います。


あっ、今全ての賊を捕らえたと兄から念話が入りました。」


「その賊というのは、バァイフ家を襲った者達に間違いありませんか?」


「はい、間違いありません。

わたしはバァイフ領から国境を避けてロンドーに逃げて来ましたが、ずっと彼奴らに追いかけられていまして、ロンドーの森の中で捕まってしまったのです。」


「イリヤさん、我が国の者を助けて頂きありがとう。


カトウ公爵様、ご尽力痛み入る。


この度のバァイフ家襲撃については、不審な点も多く我々も調査を開始していたところだったのです。


賊をお引渡し頂くことは可能でしょうか?」


「イリヤ、賊は何人くらいいたって?」


「お兄ちゃんの話しだと50人くらいだって。」


「ハリー宰相様、人数が多いこととここからはかなり距離があるので、もし大丈夫であればこちらから向こうに行きましょうか。」


「それが出来るのであれば、すぐに旅の用意をしましょう。」


「いえ、そのままで大丈夫です。


わたしの魔法ですぐに着きますから。」


お父様はそう言うと、目の前の空間に両手で扉を描き、転移の扉を作っていました。


お父様凄い。魔道具を使わずに転移の扉を作るなんて。


「お父様凄いです。

転移の扉を魔道具無しで作るなんて。

わたしにもその魔法教えて下さいね。」


「良いよ。またゆっくりね。」


その場にいたハリー様やカチアさん、兵士様が驚きのあまり口を開けて固まっていました。

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