第178話 【仕事の分業】

<<ロンドー改革担当ヘンリー視点>>

「ヘンリー、仕事の分業化について詳しく説明してくれ。

特にロンドーに導入した場合の利点についてだが。」


3国の首脳と改革担当者が集まっだ第1回合同会議の後、カーン様の執務室に呼ばれたわたしは、カーン様から『分業』について質問されました。


「まずロンドーが抱える問題について整理します。


1つ目は食糧事情です。

自給率の低さが問題ですが、耕作地に適した土地が少ない我が国では、食糧自給率を早急に上げるのは難しいと思われます。


これについては、ヤライからの輸入の確約が頂けていますので、当面はそれで問題無いと思います。


2つ目は人口の問題です。

人口が増えるのはそう問題でも無いのですが、非就業率が30パーセントと高いことが問題です。


しかし非就業者のほとんどが仕事を望んでいるにも関わらず、仕事に就けない産業構造に問題があります。


これは第3の問題点に繋がります。


我が国は工業国として製品の輸出を主産業としています。


しかし、製品の精度については残念ながらヤコブに敵うべくも無く、人材を大量動員してヤコブよりも安い廉価品を大量に出荷して、市場規模を獲得しています。


ただヤコブに比べて技術力が劣るといっても、一定以上の技術レベルは必要であり、それがクリア出来ないと職にありつけないのが現実です。


この構造が高い非就業率に繋がっています。


我が国の製造技術は、遠い昔ヤコブから技術指導を受けて拡がったものです。


現在でもヤコブ同様に全ての製造工程をひとりで行います。


わたしはこれが問題だと思います。


ヤコブはドワーフが大半です。

ドワーフは職人向きの性格をしていますので、全工程を一貫した作業を得意としますが、我等ダークエルフはそうではありません。


それ故に職人の合格点をもらえる者が限られてきます。


作業をもっと単純にすれば、就業可能な者がもっと増えるのではないかと考えました。」


「なるほど、それで分業化を取り入れ、作業の単純化を進め、非就業率を落とそうと言うのだな。


しかし、その成果として製品のだぶつきによる値崩れが起こるのでは無いのか?」


「おっしゃる通りだと思います。

あくまで亜人大陸のみを販路とするのであれば。


ジャボ大陸の市場は亜人大陸のそれとは比べ物になりません。


製品をジャボ大陸でも通用するものに切り替えていく必要もあります。


ただ、分業化による作業の単純化が上手くいけば様々な製品を展開することも可能だと思います。」


「ヘンリー、お前の言う分業化の真意理解した。


すぐに草案を作り、実行するように。


職人ギルド等障害になりそうなものについては、わたしに言ってこい。


こちらで引き受けよう。」


「アーク様、ありがとうございます。


全霊を持って進めていきます。」




こうして、わたしの壮大な改革が始まった。



一歩間違えれば、国の根幹を揺るがすかもしれない計画なのである。


わたしは充分な説明資料と自信を持って、職人ギルドに乗り込んだ。



結果は呆気ないものだった。


職人ギルドのギルド長であるマリブ殿も、わたし同様今の仕事のやり方に疑問を持っておられたのだ。


職人の後継問題や製品の競争力の低下、製品が売れなくなった時の次の製品への切り替えの難しさ等、わたしと同じことを考えておられた。


わたし達は意気投合し、親方衆を集めての説明を精力的にこなしました。


始めは否定的であった親方衆もとうとう理解して下さり、職人ギルドが中心となって工程の分割や各工程間の品質チェック項目をまとめていきました。


約半年の時間を費やして、分業化による始めての製品が出来上がりました。


それは従来の製品より品質が良く、製造に掛かる時間も30パーセント短縮されています。


その後数千個に及ぶ試験製造により、製造時間の短縮は40パーセント、不良率は5パーセント未満、製品の切り替えに必要な訓練に至っては比較すら必要の無いものでした。


そして何より、これまで職人不適合の烙印を押されていた多くの非就業者にも、仕事が与えられるようになったのです。




第1回の合同会議から1年後、ロンドーの製品はジャボ大陸で大きな市場を持つに至ったのでした。



今わたしは次なる挑戦として、教育の推進を行なっています。


これまでどこにも無かった製品の研究開発を推進し、物づくり大国として盤石な基盤を作るのが、わたしの次なる野望であります。

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