第109話 【結婚式と披露宴の旅3】

<<カトウ運輸警備課 課長ハリス視点>>

俺の名前はハリス。

もう5年になるか、ワーカ領で義賊を気取っていた俺達『風の旅団』が騎士団にとっ捕まり、死刑を待っている時に、俺達を助けてくれて仕事まで与えてくれた方がいた。


今俺が勤めているカトウ運輸の会頭マサル様だ。


その後カトウ運輸の用心棒となった元『風の旅団』だが、カトウ運輸の規模拡大と共に組織の規模も膨らみ、今では警備課だけでも10,000人以上いる。


俺は今その警備課を任されている。


警備課の仕事は主に4つだ。

1つ目は、物流センター及び配送センターの警備だ。

大陸中に、物流センター50ヶ所、配送センター200ヶ所があり、それぞれに、3~100人程度つけてある。


2つ目は、本社の警備だ。

訓練生や予備隊を含め、2000人程度。


3つ目は、駅の警備だ。

各街道にある駅は、その地の領主が経営しているが、警備に関しては、カトウ運輸が一括して請け負っている。

駅の数は、全部で1000程度ある。


4つ目は、配送中のトラックの警護だ。

1配送につき、5人程度がつく。

少ないと思うかもしれないが、駅にも警備課のものがおり、異常があれは直ぐ情報共有できるし、何かトラブルがあれば駆けつけることも出来る。


本社の予備隊が定期的に訓練を兼ねて、見廻りもしているので、問題ない。


まぁ、もし襲われたとしても、会頭が作られた魔道具で、強力な結界が張れるので大丈夫だ。




採用は基本的に地元で行う。

入社後、本社で訓練と教育を行い、武力と学力のテストに合格したら、採用元の物流センターに配属になり、希望を加味して配属先を決める。


そうなので、警備員といえども役所の事務程度は余裕でこなせる。


そんなことをして、転職されないのかって?


カトウ運輸は、給与も福利厚生も破格なので、転職しようなんてやつはいないんだ。



さて、今日は、ハローマ王国王都物流センターで、会頭とリザベート様の披露宴があるので、俺も予備隊のメンバーを引き連れてハローマ王国の王都に来ている。


一昨日キンコー王国で結婚式と披露宴があった。


そして、今日はハローマ王国で披露宴だ。


普通は、馬車で7日以上かかる距離だが、おふたりは空を駆けて移動するらしい。


残念ながら、俺達が警護することは叶わないので、先回りしてハローマ王国にやって来たのだ。


披露宴会場となる物流センターから500メートルほど離れたところで、おふたりは着地されるらしい。

そこで我々は馬車を用意して待っている。


馬車で沿道に集まった人々の歓迎に応えながら、会場まで進まれるので、その警護をするためだ。


「おお~い、おお~い。」

頭の上の方から声がする。

やがて頭上に点が見え、そして大きくなってきた。


「マサル様、奥様、お疲れ様でした。

こちらの馬車にどうぞ。」


おふたりを馬車に乗せ、御者に出発の合図を出す。


沿道の観衆に手を振りながら馬車は街道をゆっくりと進んでいく。


おや、沿道で泣いている子供がいるな。

膝を擦りむいているようだ。


リザベート様がその様子を見て、馬車の中からその子供に手を翳すと、膝の擦り傷が直ぐに治った。


この様子を見ていた大人達が、一斉に馬車に向かって手を合わせ出す。


「「「「聖女様だー」」」」


一斉の聖女コールに一時は、緊張が走ったが、問題になることもなく、無事に披露宴会場に到着した。


披露宴会場には既に大勢の高貴な方々が詰め掛けていた。


ハローマ王国の披露宴も3日かけて3交代制で行われる。


1日目は王族や上級貴族が中心で、2日目は中級以下の貴族、3日目が、カトウ運輸社員を含む上流市民や招待された一般市民となる。


ちなみに3日共カンパイの挨拶は、ガード王が務められるそうだ。


救国の英雄と聖女様かぁ。


護衛とはいえ、こんな間近で世紀の披露宴を観れるなんて、本当に幸せ者だ。


あの時マサル様に拾って頂いたこの命、何があっても恩返しをしなきゃな。




<<マリー・ダゴー視点>>

マサル様の披露宴に参加させて頂いた。


あの時、マサル様に救って頂いたのは、わたしやお父様の命だけじゃない。


あのままだと、ダゴー領が乗っ取られ、ハローマ王国が傾く恐れがありました。


その上、ユーリスタ様との和解、行政改革の推進担当大臣就任と、わたしの今があるのはマサル様のおかげです。


元々は、わたしの心の弱さが招いた事件でしたが、本当にマサル様にはいくら感謝しても足りません。


「マサル様、リザベート様、ご無沙汰致しております。」


「これはマリー様。本日はわたし達の披露宴にお越し下さりありがとうございます。


お義母様もマリー様にお会いしたがっていたのですが、ちょっと強行スケジュールだったので、来れませんでした。


よろしくお伝え下さいとのことです。」


「まぁリザベート様、ユーリスタ様とは、トランシーバーでしょっちゅう話してるから大丈夫よ。


それより、本当におめでとうございます。


マサル様もリザベート様もいつまでも仲良く、幸せになって下さいね。」


「マリー様、ありがとうございます。必ず生涯を添い遂げ最後まで幸せでいます。


ところで、そちらにおられる男性は、ひょっとして、マリー様の?」


「ええ、この歳になって恥ずかしいのですけれど。


ご紹介させて頂いてもよろしいかしら。


こちら、わたしの補佐をして頂いている、ガレー侯爵様ですの。


先日プロポーズして頂きまして。……」


「本日はおめでとうございます。ハンス・ガレーと申します。


マサル様の話しは、マリー様からよく聞いております。


マリー様を助けて頂き、本当にありがとうございました。


わたしもマリー様を伴侶として助け、経済を発展させることで、恩返しが出来ればと思っております。

これからも、お付き合い頂けますよう、よろしくお願いします。」


そうなのです。もうお婆ちゃんの歳になってるので、ちょっと恥ずかしいんですけど、ハンスさんがプロポーズしてくれたんです。


ハンスさんとは、幼なじみだったんですけど、キンコー王国から戻って、心が乱れていたわたしは、彼の掛けてくれる言葉にも、聴く耳を持てなかったのです。


それなのに、ずっと寄り添ってくださっていて、わたしが、行政改革担当大臣に就任する時に、副大臣をかって出てくださったのよ。


奥様を早くに亡くされていて、わたしに正妻としてプロポーズしてくださったの。


本当に嬉しくて涙が止まらなかったわ。


「マサル様、リザベート様、老桜の結婚なので、本当に身内だけで、式をしようと思うのだけど、もしよかったら、お越し頂けますか?」


「「是非参加させて頂きます。


おふたり共お幸せに。」」


本当に、本当にありがとうございます、マサル様。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る