第106話 【閑話 カトウ公爵家侍女メアリ】

<<カトウ公爵家侍女メアリ視点>>


わたしの名前はメアリ。

奴隷として生まれ、9歳まで奴隷商で育ちました。

お父さん、お母さん共に奴隷でしたので、わたしが物心つく前に2人とも別々に買われていったそうです。


なので、わたしには両親の記憶がありません。


わたしも、10歳になったら奴隷として売られる予定でした。


ある日、わたしは10歳を待たずに売られました。


一緒に地下室にいた人達全員一緒にです。


明るい外に出ると、大きな馬車に乗せられました。


何台も馬車がいて、皆んな乗せられたようです。


馬車は、町外れの大きな建物に着きました。

馬車から外を見ていると、前の馬車から、地下室で親切にしてくれたミルクさんが建物の中に連れて行かれるところでした。


わたしは馬車から飛び出してミルクさんのところに走っていきました。


ミルクさんはわたしを庇うようにしてくれましたが、わたし達が叱られることはありませんでした。


わたし達は、奴隷の列に並び一緒に建物に入って行きます。


すると、綺麗な服を着たお姉さんが2人に綺麗な服を渡してくれました。

小さな布切れのようなものもあったので、ミルクさんに尋ねると下着だと教えてくれました。


そのまま奥に行くと、大勢の女の人が、今入って行ったばかりの奴隷達に水をかけています。


あれが噂に聞いていた折檻でしょうか?

でも、気持ち良さそうです。


頭から泡をたくさんつけてもらい、どんどん水で流されています。


その一連の作業が終わると、大きな四角の枠に水を張った場所に入って行きました。


ミルクさんは、驚いた様子でそれを見ています。


そして、わたし達の順番が来ました。


水は少し温かく、気持ちいい温度です。


泡をたくさんつけた布で身体中を擦られます。


少しヒリヒリしますが、慣れてくると気持ちいいです。


髪の毛もゴシゴシされました。


そして、泡を水で流すと四角の水溜まりに連れて行かれました。


そこには温かい水がたくさんあり、その中にいると幸せな気分になります。


少し眠ってしまったのかも知れません。


ミルクさんに体を揺すられて、わたしは起きました。


「ミルクさん、この中気持ちがいいです。」


「そりゃそうよ。ここはお風呂って言うの。

貴族様や大商人でないと入れないところなのよ。さっき身体を洗ってもらった泡も石鹸と言って高級品なのよ。」


そういえば、ミルクさんはどこかの国の貴族様の家で働いていたと聞いたことがあります。


戦争でその貴族様が殺されて、ミルクさんは奴隷として売られたそうです。


「さっき貰った服といい、お風呂といい、どうなっているのでしょうね。メアリ、わたしから離れないようにね。」


わたし達は、誘導されるまま移動し、先程貰った服を着ました。

綺麗な模様が入っていて薄いピンク色の服です。


わたしが下着を付けないので、わたし達の世話をしてくれているお姉さんが、下着の付け方を教えてくれました。


ミルクさんが中々来ないので待っていると、さっきとは違うお姉さんに声を掛けられました。


「メアリちゃん、お待たせ。」


その声はたしかにミルクさんですが、顔は別人です。


「あら、そうか化粧したから分からないんだ。

わたしよ。ミルクよ。」


にっこり笑った顔はミルクさんでした。


でもとっても綺麗です。


「ミルクさん、とっても綺麗。」


「ありがとう。でも、メアリちゃんも肌が白くてモチモチでとっても綺麗よ。」


そう言って、ミルクさんは鏡の前に連れて行ってくれました。


自分の顔なんて見たこともないので、よくわかりませんが、白い肌の女の子がそこにいました。


「さっき化粧してもらう時に聞いたんだけどね、キンコー王国で奴隷解放令が出されたみたいなの。


わたし達は、他の国に連れて行かれる前に、この国の大金持ちに保護されたみたい。」


わたしには何がなんだかわかりませんが、ミルクさんが喜んでいるので、わたしも嬉しくなりますました。


その後、美味しいご飯を食べたわたし達の前に、1人の男性が現れました。


「皆さん、もうご存知の方もおられるかも知れませんが、キンコー王国に奴隷解放令が出されました。


皆さんは、もう自由です。


行くところ、帰るところがある方は、心ばかりですが、旅費を出します。


もし、どこにも行くところが無い方達は、わたしの商会のお手伝いをしてくれたら助かります。


もちろんお給料はお支払いします。」


数人を除いて、ほとんどの人はその場に残りました。


ミルクさんもわたしも残りました。



ミルクさんは、学校も出ていたので、経理部門に配属されました。


わたしは、学校に通わせて頂くことになりました。


毎日が楽しくて幸せでしょうがありません。


一生懸命に勉強もしました。

早く商会に入って、少しでも恩返しがしたかったのです。


そして、卒業と同時にカトウ運輸に入社が決まりました。


ミルクさんと同じ経理課です。

ミルクさんにたくさん仕事を教えてもらいました。


先輩のユリアさんも親切にしてくれます。


そんな日が3年ほど続いたある日、番頭のヤング様から呼ばれました。


「メアリさん、配置転換して欲しいのですが、如何ですか?」


本当は、経理課で働いていたいのですが、恩のある会社の命令です。


断るなんて出来ません。


わたしが頷くと、ヤング様はホッとしたようです。


「実はあるお方のお屋敷に侍女として勤めて欲しいのです。」


こうしてわたしは、侍女として王都のお屋敷に行くこととなりました。


お屋敷には、まだご主人様は住んでおられ無いようで、メイド長のアリス様に色々と教わりながら侍女としての心構えや仕事を覚えていきました。


物心ついた時からいたあの暗い地下室から考えると、このような素晴らしいお屋敷で働けるなんて夢のようです。


でもこれは奇跡なんかではなく、1人の男性のおかげなのです。


そう、わたし達を奴隷から解放して下さり、安心と教育、そして職を与えて下さったあの時の男性です。


できればあの方にお礼を言いたかったのですが、教えて頂くことは叶いませんでした。


ようやく、侍女としての合格点をアリス様から頂いた頃、旦那様とその婚約者が、お屋敷に来られることになりました。


わたし達は、家宰のクリス様先頭に屋敷前で待っています。


そして、旦那様が到着されました。


カトウ公爵様、そうあの時の男性だったのです。


最近、吟遊詩人がよく唄っている英雄マサル様と聖女リザベート様のお2人が仲良く馬車から降りてこられました。


また、マサル様に元気を頂きました。


一生懸命お仕えしますので、末永くよろしくお願い致します。

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