第92話 【婚活エレジー1】

<<ヤリテ視点>>


会頭やリザベート様のお見合い写真騒動から始まった婚活パーティー事業ですが、順調に回数を重ね、最近ではキンコー王国以外の国でも開催しています。


ありがたいことに、参加者も毎回500人程集まり、約3割程度がカップルになり、その内の5割程度が婚姻に至ります。


だいたい1回に30~40組程度が6ヶ月以内に結婚されるのです。


子供が出来たと写真を撮りに来られる方など、微笑ましい話も良く聞くようになりました。


まぁ、1回目がダメでも、数回参加すればカップルまで行き着く方が8割以上おられるので、わたしも安心して、新しい企画を考えている近頃です。


ただ、中には5回以上参加されていてもご縁に恵まれ無い方々もおられるのも事実です。


今回は、そんな方のお話です。




<<ハローマ王国騎士ジン視点>>


「今日もダメだったか。」

俺の名前は、ジン。ハローマ王国王都騎士団に所属する騎士だ。


「これで5回目か。ふうー。

やはり俺には結婚は無理かなぁ。

まぁ結婚だけが人生じゃない。

とはいえ、アイツのためにも、やっぱり結婚しなきゃなぁ。


でもあんなことがあったから、やっぱり敬遠されるのは仕方ないか。」




1年前、俺には結婚を約束した女性がいた。

アイツは、気立てが良く、俺にはもったいない女性だった。


アイツは、俺が隠密任務で長期間他国に行っている間に自ら命を絶ったのだ。




本当は、3ヶ月で終わる任務であった。


3ヶ月程度の任務はよくある。

俺はいつも通り、アイツに『行って来る』と言って旅立った。


もうすぐ任務が完了しようとしていた時、事件が起きた。


交代要員として新しく来た同僚が、酒場でチンピラ同士のトラブルに巻き込まれ、逮捕されてしまったのだ。


すぐに釈放されたが、身元が判明した奴を隠密任務に当てることもできず、俺は後3ヶ月残ることになってしまった。




俺が任務を終えて街に戻って来たのは、アイツが命を絶ってから1週間後だった。


街に着いて真っ先にアイツの家を訪れたが、アイツの姿は無かった。


「ジンさんっ!!

いったいどこに行っていたのよ。

半年も連絡をよこさずに。


姉さんは、あなたに捨てられたと思い込んで、自殺してしまったのよ。」


俺は、アイツの妹の話しを信じられず、その場に蹲ってしまった。


何がなんだかわからなかった。


確かにアイツには、『仕事でしばらくここには来れない。』としか伝えていなかった。


隠密任務の時は、親兄弟にも告げてはいけないのだ。

もちろん、手紙を送ることすら、禁止されている。


「これを見て。姉さんが亡くなった後、ゴミ箱に残されていたものよ。」


差し出された一片の紙には『ジン早く帰って来て、わたしもう我慢できそうにない』と、アイツの字で嬲り書きされていた。


俺が呆然として立ち尽くしていると、アイツの妹は、俺を部屋の外へ追い出した。


「もう二度と顔を見せないで!」

そう言うと彼女は扉を強く締めてしまった。


まだ現実を受け入れられず呆然としたままの俺は、そのまま自宅まで帰るしかなかった。


自宅の扉を開けると、一通の手紙が扉の内側に落ちていた。


『ジン、ごめんなさい。わたしは先に天国に行きます。


ジンが悪いわけじゃないの。


ジンが、仕事でしばらく帰らないと言って出て行ってからしばらくして、男が訪ねて来たの。


代官が話しがあるから、付いてくるようにって。


わたし馬鹿だから、ジンに何かあったのかと思って。


行ってみたら、代官の息子に俺の妾になれって言われた。


もちろん断ったんだけど、周りにはたくさん仲間がいて。


わたしもう、生きていけない。

ジンに会えない。


ジン、ごめんなさい。

先に行きます。


あなたは、新しい人を見つけて結婚してね。


そしてね、ずっと後でいいから、天国で、奥さんと子供を紹介してね。

これが最後のお願いよ。』


涙に濡れた後の残る手紙を握り締め、俺は代官の家に走った。


代官の息子とその取り巻きを捕まえ問い質すとへらへらしながら、話し出しやがった。


その悪びれた様子も無いその態度に、俺はぶち切れた。


我を忘れた俺は傷害罪で衛兵に捕まり、牢に入ることとなった。


3ヶ月の牢屋暮らしの後、俺は騎士団に復帰した。


あの後、俺はアイツらを半殺しにしたらしい。

よく覚えていない。


奴等は、他にも同様の犯罪をたくさん起こしていたそうだが、代官が怖くて、皆泣き寝入りをしていたとか。

俺の行動で、それらが明るみに出て、奴等は死刑になり代官も罷免され、爵位剥奪の上追放されたそうだ。


俺の罪は、情状酌量と、騎士団からの計らいで、3ヶ月の牢屋暮らしで済んだ。


騎士団に復帰後、少しして団長から呼ばれた。



「今回のことは俺もすまないと思っている。

お前が隠密任務のことを言えないばかりに、彼女の家族に冷たく当たられているらしいな。

もし、あの不測の事態が起きなければ、彼女はあんな目に合わなくて済んだかも知れないのに。」


「団長、お気遣いありがとうございます。

もう大丈夫です。


彼女とは天国で会うことを楽しみにします。もちろんすぐに死にたいわけじゃないですよ。

彼女の遺言に結婚して家族を紹介して欲しいとあったので、まずは結婚できるようにかんばります。」


「わかった。応援するので何か手伝うことがあったら言ってくれ。」



こうして俺の嫁探しが始まった。

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