第81話 【帝国カレッジでの講演】

<<帝国カレッジ生徒会長サリナ視点>>


わたしの名前はサリナ・エルン。

エルン公爵家の2女です。


今日はリザベート様がカレッジに来て下さる日です。


この日が来るのをどれだけ待ち望んだことでしょう。


わたしは、キンコー王国ナーラ公爵令嬢のリザベート様の大ファンです。


どのくらいのファンかって?


我が家には諜報活動を得意とする家臣集団『影の者』がいます。


その中の1人であるハンスに、リザベート様の行動を追跡させて、逐一報告させています。


リザベート様はすごい人です。


父母の突然の死を乗り越え、母方の叔父にあたるナーラ公爵家に養女として入ってからは、のちにハーバラ村の奇跡と呼ばれる農村改革に参加して大きな功績を残されました。


大陸一と言われるキンコー王国の王立アカデミーに入学してからは、常に学年トップの成績を維持しながらも、アカデミー内で『次世代の農村を考える会』を設立し、自らが主宰することで、学生や先生方に農村改革の重要性を説き、理論ではなく実践を持って行動することで、アカデミー内に革命をもたらしたと言っても過言でありません。

実際、『次世代の農村を考える会』で学んだ生徒は、全国に散らばりその地の農村改革を推進して各地で功績を挙げています。


昨今のキンコー王国の隆盛に大きく貢献したことは、間違いありません。


また卒業後はキンコー王国初、いや大陸初ではないでしょうか、女性でありながら国家官僚となり、政治に関心を持つ全女性の憧れの的になっています。


そして今も官僚として全国各地を廻りながら、改革の進捗状況を確認したり、問題を解決に導いたりと大活躍されています。


その最新情報はハンスを通じてわたしに入ってきており、わたしの最大の関心事です。


リザベート様の素晴らしい功績はもっと広くみんなに知られるべきだと思うのです。


だから、ハンスに吟遊詩人の真似事をさせて、世の中に広める活動を始めさせました。


また、あの改革の英雄マサル様とのロマンスの行方も興味津々です。

こちらはあまり進展が無いようですけど。


そんなリザベート様ですが、最近は大陸各国から講演依頼を受けて、大陸中を廻っておられるようです。


是非この学校にも来て頂きたいと思いました。


2ヶ月前に校長と掛け合い、カレッジでのリザベート様の講演の必要性を説き、開催を勝ち取りました。


講演依頼が殺到しているみたいで、普通にお願いしたらかなり遅くなるみたい。


レイン叔父様にお願いしたら、早くなったのは秘密ね。


それからは生徒会長の権限を駆使して全校生徒に宣伝活動を行ってきました。

もちろん、リザベート様の功績を喧伝するのも忘れません。


こうして、全校を挙げての歓迎ムードの中、本日の講演を迎えることとなったのです。


朝から校舎の前でリザベート様をいまや遅しと待っています。


生徒の皆さんは、校門を出て50メートル先くらいを先頭に校舎前まで並んで待っています。


わたしも前に行って待ちたいのだけれど、生徒会長なので仕方なく校舎前で待ちます。


そのかわり、生徒を代表して挨拶をさせて頂きます。


その後も、校内の案内をさせて頂きたいと思います。


いつも清廉潔白を是としているわたしですが、今日くらいは生徒会長権限を濫用です。


あぁ、リザベート様を乗せた馬車が校庭に入って来ました。


あれはもしかしてトラック馬車ではないでしょうか。


英雄マサル様のカトウ運輸が開発し、物流革命を牽引した馬車です。


構造が極めて複雑で、分解しても再現が出来ないと言われていましたが、国際特許のおかげで製造方法が入手出来るようになり、トカーイ帝国でも、最近試作品が完成しました。


先日、レイン叔父様が試乗される際に同乗させて頂きました。


国際連合事務局内で本物に乗られた叔父様は、完成度の低さを指摘されていましたが、乗り心地は今迄の馬車とは比較にならない程快適でした。


本物はどんなに素敵なのでしょう。


トラック馬車が校舎前に到着しました。


馬車から降りてこられるリザベート様を見て、胸が高鳴ります。


リザベート様は、わたしに素敵な笑顔を投げかけて下さいました。


わたしの心臓はバクバクです。


わたしは、何とか歓迎の挨拶をしましたが、気持ちが昂りすぎて、要らないことまで言ってしまったかも知れません。


痛恨のミスです。


挽回しようと気持ちが焦ります。


わたしのその後の行動に違和感を感じたのでしょうか、リザベート様はそっとわたしに近づいて「緊張しなくても大丈夫ですよ。よろしくお願いしますね。」って耳元で囁いてくれました。


皆んなに気付かせないようにとの配慮でしょう、わたしは落ち着きを取り戻すと同時に、もっとリザベート様を好きになりました。


講堂の演説台まで案内しました。


演説台を離れる際に見たリザベート様の可愛い笑顔は、わたしにとっていちばんのご褒美になりました。


講演の内容は素晴らしいものでした。


ハーバラ村でのエピソードや視察で訪れた各地の状況や現地担当者の奮闘振りを、要点をまとめながらも、知らない人にも分かり易いように注釈を加え、かつユーモアも交えながらの話しは、皆んなを魅了しています。


講演が終わった直後、会場には拍手の嵐が続きました。


わたしは感動に震えています。

実際のところ、わたしはハンスから報告を受けているので、話しの内容は既に知っていました。


では、何に感動したのか?


ハンスから聞いたリザベート様の活躍は、話しにも出てきましたが、彼女から語られる話しは彼女自身が主役ではなく、一緒に頑張った人達が主役なのです。


彼女の人となりをより肌身で知ることができ、ますますリザベート様を好きになると共に、大きな目標となりました。


わたしもカレッジを卒業後、官僚として頑張る決意をしていますが、それに加えてリザベート様のような、大きくて暖かい人間を目指したいと思います。



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