第68話【富めるモーグル王国と乗り遅れた2国 3】
<<ハッカ視点>>
カッパ様の回想に涙した者はわたしだけではありませんでした。
その場にいる者全てが当時の状況をもっと聞きたがり、その日はそのまま飲み会の席に移動したのでした。
翌日、事務局の会議室に入ると昨日のメンバーともう1人懐かしい顔がありました。
「マサル殿、お久しぶりです。」
「カッパ宰相、ハッカ外務大臣、ご無沙汰いたしております。半年ぶりですね。その後,何か問題は起きておりませんでしょうか?」
マサル殿はいつもの気取らない飄々とした態度で接してくれます。
愛嬌と親しみを感じるのは私だけではないはずです。
「国内は全く問題ないです。しいて言えばマサル殿を祀るための社殿と巨大な像ができたくらいでしょうか。」
「ええっ、どうしてそんなことになったのですか?」
「皆がマサル殿に感謝しているのですよ。特にカトウ運輸に職を得られた者やカトウ運輸のおかげで恩恵を受けた達はマサル殿を神格化しております。
商人達も同様です。これまで厚い砂漠に覆われて商人らしきことが何もできない土地でしたから。
カトウ運輸のおかげで、様々な国との交易ができるようになり、自国の生産物を他国で販売できることを無常の喜びとしていますし、他国の商品を販売して自国の民に喜ばれることにも商人としての誇りに感じているみたいです。
生活に余裕ができてきた民達が、マサル殿を称えるために寄進を始め、それが形になったのがくだんの神殿と巨大像です。」
「カッパ宰相、それはなんとか止めて頂かないと、恥ずかしくてモーグル王国に行けないじゃないですか。」
「それだけ民は喜んでいるのですよ。マサル殿にお越しいただければ、民の熱狂ぶりは更に高まるでしょうな。」
「まあ、それでモーグル王国が繁栄して生活水準が向上すれば、わたしも頑張った甲斐があったというものですが。」
「マサル殿は、どこに行ってもやらかしておるな。どれ、ここにも巨大像をつくってみるかのお。」
アーノルド様の言葉に顔色をコロコロ変え困っているマサル殿以外は一様に笑っていますが、案外本当にそう思っているのかも知れないと思う雰囲気がそこにはあるのでした。
「さあ皆さん、マサル殿がお困りですよ。そろそろ会議を始めませんか?」
「そうじゃの、マサル殿はからかい甲斐があるから調子に乗ってしまったわ。スマンなマサル殿。」
「今後は勘弁してくださいね。さあ会議を始めましょう。」
わたし達はそれぞれの席に着き、わたしの説明から会議が始まりました。
「モーグル王国は、隣国のナーカ教国、ハーン帝国の2国と数100年に渡り複雑な状況の中で関係してまいりました。
それが100年前のナーカ教国との戦争から現在の3国関係が続いています。
100年前の戦争は、ハーン帝国を攻めたナーカ教国に対し、ハーン帝国からの救援要請により、我々モーグル王国が参戦し勝利したのですが、モーグル王国がこれ以上強大になることを恐れた近隣諸国の圧力により、なんの見返りも得ることが出来ず、戦勝国としては扱われませんでした。
それどころかナーカ教国を侵略したとされ、戦勝国であるにもかかわらず、戦後賠償や不平等な国交条約を結ばされました。
そしてこれに乗じて訳の分からないのがハーン帝国です。
我が国に助けられた事実を捻じ曲げ、自国も我が国に侵略されたと言い出しました。
さすがに、この主張を認める国はありませんでしたが、少なからずナーカ教国に攻められた傷跡も大きい為、ハーン帝国に請われて復興支援として資金提供しました。
彼らはあろうことか、これを賠償金だと風潮し、自分達の主張が正しいと大陸中に喧伝して周ったのです。
その後もハーン帝国からは、強請りまがいに支援金の要求が絶えません。
ナーカ教国には、戦後どこからか現れた正体不明の者達が、疲弊したナーカの民達を宗教を利用して先導して元々存在したナーカ教を排除、その後国自体を乗っ取り、ナーカ教国はその者達に支配されました。
彼らはゆっくりと国内の不穏分子を排除し、独裁体制が整うとそれまでの聖者の仮面を剥がし、民に対し教義の名の下に奴隷のような扱いを始めました。
近隣の小国に強引に自らに都合の良い教義を広め、従わない場合は武力による弾圧を行い、洗脳により実質的な領土拡大を行なっております。
今は鳴りを潜めておりますが、彼の国の号令で動く者達は、キンコー王国にも匹敵する勢いと推定されます。
この数10年は、ご存知の通り我が国やハーン帝国、ナーカ教国共砂漠化が進み、共に内政に集中せざるを得ない状況になっておりましたので、3国間は安定したように見えておりましたが、昨年からの我が国の景気回復を見て、再び両国からの嫌がらせが始まったのです。
ハーン帝国はナーカ教国と共謀して100年前の戦争における事実を捻じ曲げ、捏造した歴史を作り上げ、大陸各国に喧伝を始めました。
それはもうプロパガンダと呼べるものです。
国によってはその言葉を真に受け、我が国に対して良くない印象を持っているところさえあります。
それらの国を味方につけ、更に捏造した歴史を広めています。
今回、国際連合加盟時には、幹事国の3国の首脳方が過去の正しい歴史をご存知頂いていた為、無事に加盟出来ましたが、近隣諸国にはそれを不満に思っている国もあります。
特に昨年来我が国が経済成長する様が気にいらないのです。
本日お願いに参った要件は、彼の2国はともかく、少なくとも国際連合加盟国に対して、我が国の立場と主張を認めて頂く為の方法についてご相談させて頂くことです。」
「承知しました。モーグル王国の置かれた事情と今回の相談内容については理解しましたし、個人的には同情致します。
ただ、この国際連合は国際社会の秩序を守る為の組織です。
一方の主張のみでその真偽を見極める訳にはいきません。
如何でしょうか、アーノルド様。」
「そうだなスポック君。君の言う通りだ。
カッパ宰相の性格はよく把握しているつもりだが、彼は嘘のつけぬ男だ。
それは私が保証しよう。
だが、ここはスポック事務長の言うように、何事に対しても公正でないといかん。
何か主張を裏付ける証拠はあるかね?」
アーノルド様の問いに、わたしは持参した書類を提出しました。
「これは、100年前の戦争終了後に交された締結文書と、その内容について実際に行われた賠償の記録とナーカ教国側の受け取り証明です。
こちらは、ハーン帝国からの支援要求の記録とそれに対する支援内容の一覧、ハーン帝国からの受け取り証明です。」
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