第27話【突然の強襲】

<<ホンノー自治区 アベル首長視線>>

我らホンノー自治区に住むホンノー人は、過去に和解し、自治区として安住の地を保証してくれている、キンコー王国の庇護の下安定した生活を送っている。


ここ数年は、キンコー王国の好景気の影響を受け、生活水準も徐々にではあるが上がってきている。


なによりも、生活に欠かせない塩と砂糖がこれまでよりも安く安定して入手できるようになったのがありがたい。


キンコー王国では、行政改革が大きく進んでおり、たちまちの生活だけでなく、庶民への教育制度の充実等未来を見据えた改革が進行中だそうだ。


我らホンノー人も、いつまでも今までのしがらみに囚われずに、キンコー王国の一員として、前進していくべき時かもしれん。







「アベル首長、大変です。結界が、破られそうです。」


「なに! して敵はキンコー王国の軍か?」


「いえ、同じホンノー人だと思われます。たぶん、カクガーの森に住む一族かと。」


「助け合うべき同族が、何故?

結界の多重化はしておるか?」


「はい、破られそうなところから多重化を施し、なんとか防いでおりますが、敵は魔道具とおぼしき強力な武器を持っております。


数名の敵に侵入を許した模様ですが、なんとかしのぎ、ギリギリの攻防が続いています。」


「わかった、俺が行こう。」


俺が現場に到着すると、ライヤーが陣頭指揮にあたっていた。


向こうの人数は、思ったよりも少ないが、状況は酷かった。


辺り一面の土地は焼け焦げ、ところどころが隆起している。


敵に対して味方の損害が圧倒的だった。


ホンノー人は、本来異能の力を持っている。


異能の力とは、魔法とは異なり、肉体の一部の機能が異常に強化されているものをいう。


人にもよるが目や耳なら数キロ先のものが見えたり聞こえたりする。


最近では、ホンノー人でも異能の力が弱体化しつつあるが、我が家系は代々特に強力な力を維持している。


俺の異能は、筋力アップと脚力アップだ。


俺は、異能の力を使って敵に瞬間で近づき、一撃を入れ倒す。


また別の敵に向かい、一撃を入れる。


この繰り返しで、敵の人数を減らしていく。


やがて、敵の数が数えられる程になった頃、敵は撤退した。


まるで、撤退することを前提にしていた様な見事な撤退振りだった。


「ライヤー、無事か?」


「アベル様、わたしは、大丈夫です。が、味方の損害が、大き過ぎます。」


「とりあえず怪我人の手当てが先だ。医療班の手配を。」


「はっ、承知致しました。サラン、すぐに呼んでこい。」


「はっ。」





「ライヤーです。アベル首長、少しお時間を頂けますでしょうか?」


「ライヤー、どうした。先週のカクガーの民の襲撃の件か?」


「はい、やはり彼らは、カクガーの森に住むホンノー人でした。先程、彼らから書状が届きました。」


「やはりそうか。それで何と?」


「3ケ月猶予を与える。その間にこの地を明渡せと。


もし断れば今後は、先週のような少数での襲撃ではなく、全力で潰しに来ると脅してまいりました。」


「うむ、しかしカクガーの民は、小さな部族に分かれており、我らに対抗する様な力を持っておらなかったと認識しているが。」


「仰るとおりです。先週の襲撃の後、隠密衆に調べさせたところ、少し前に全部族がまとめられ、武装強化している模様です。」


「少し前まではそんな気配も報告されていなかったと思うが?」


「仰るとおりです。近隣の様子については定期的に隠密衆に監視させております。


そこからは、そんな報告は受けておりません。


隠密衆にバレないくらい静かに進行していた可能性はありますが、あれだけの数の部族をとなると、考えにくいと思います。」


「そうだな、俺もそう思う。


そうなると、強力な武力を持った者が現れ、電光石火でまとめ上げたことになる。


もし、そうだとしたら厄介なことだ。」


「あの魔道具が大量にあるとすれば、あり得ることだと思います。


どちらにせよ、先週の数倍の攻撃を受けると我らだけでは持ち堪えることは不可能でしょう。


幸いなことに、わたしは来週キンコー王国ネクター王に定例挨拶に伺うことになっております。


ネクター王に相談させて頂こうと思っておりますが、如何ででしょうか?」


「わかった、そうしてくれ。詳細はライヤーに任せる。


上手く助力を得られるように頑張って来てくれ。」


「承知致しました。良い返事を持ち帰られるように粉骨砕身努力致します。」




<<ネクター王視点>>

今年もホンノー自治区の使者が城にやって来た。


こちらから攻める気は無く、今後もこのままでお互いの距離感を保っていこうという取り決めは、100年近く前に両者で合意したと、王家で代々受け継がれている。


その際、その確認の意味も込めてホンノー自治区の使者が、献上品を持って王都を訪れるのが習わしである。


「ネクター国王陛下におかれましては、ご健勝のこと、お慶び申し上げます。


こちらに参上する道すがら途中の街、村を見て参りましたが、どちらも好景気の様に見えました。我らとて、出入りの商人を通して、様々な物資を入手させて頂いております。


特に、塩、砂糖については、これまでより質が良い物を安価に入手できるようになりました。


我らの作った民芸品等も好景気の影響で販売量が増えております。」


「それは僥倖なことだ。


これを機に更に交流が進むことを期待している。


ライヤー殿、この度の来訪歓迎する。城内に部屋を用意してあるので、しばらく滞在されゆるりと過ごされるが良かろう。」


「お気遣いありがとうございます。


こちらは、いつもの手土産にございます。


お納め頂けますよう。」


「うむ、有難く頂くとしよう。


して、自治区の内部の状況については、変わりないであろうか?」


「その件につきまして、いささかご相談致したき儀がございます。」


「なんと珍しい。遠慮なく申してみよ。」


「我らホンノー人は、実は自治区だけでなく、様々な地域に住んでおります。


ほとんどは、森の中等人目につかない様にひっそりと暮らしておりますが。


実は、お恥ずかしい話しですが、ホンノー人も一枚岩ではなく、対立する者達も存在します。


彼らは、我らの生活水準が向上したのをどこかで聞いたようで、1月程前に突然自治区にやって来ました。


彼らは、武器を振るい、この場所を明渡せと迫ってきました。


我らとて、自治区を出て移り住む当てもなく、当然のことながら要求を突っぱねました。


その場は、なんとか追い出す事に成功しましたが、その後書簡が届きました。


そこには、2ヶ月間の猶予の間に立退かねば総攻撃をかける と書いておりました。」


「なんと無体な!仮にも自治区はキンコー王国にある。


そこに攻め入るということは、我が国に仇なす者と言えよう。


ライヤー殿、我が国が加勢致しますぞ。」


「有難いお言葉、ありがとうございます。


されど、我らとて異能の力を持つ者。


彼らもそうであり、その上で彼らは強力な武器を持っております。


もし、王国の軍をもって対抗したとしても、多大な被害が予想されます。」


「うむ!、王国軍が敗れることも考えられるか。………


して、その武器とは、どのようなものだ。」


「魔道具の類いと思われますが、一振りすれば辺り一面火の海になる杖、巨大な揺れを起こして全てを壊してしまう石鎚等です。」


「うむ、強力な魔道具とな。


そうだ、マサル殿に相談すれば、なにか良い知恵が出るかも知れん。


誰か、ユーリスタ行革担当大臣のところのマサル殿を呼んでくれ。」

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