第147話
――ある日の夜。
数百年前の話だ。とある村から娘が「鬼に
人望も厚く、誰よりも信頼を寄せる程に人気のあった娘だったという。その娘が暮らしていた家は宿をしており、食事処で配膳をすれば色恋沙汰の誘いが絶えなかったとも噂されていた。
だがしかし、ある日を境に娘の姿を見る者は誰も居なくなった。いや、その娘を見た者は誰も居なかった。その村から存在が消失し、
村中は騒がしくなり、ある者が言った言葉が伝染した。それが……
――『鬼に攫われた』である。
「それがオレの……後のオレの母親だ。娘は年若く、不老かと疑われる程に美しかったらしい。まぁ、オレも自分の母親は綺麗な人だとは思ったが……死ぬ直前、オレは母親が人間であるという事を聞いた。それも殺した奴から、な」
焔は淡々と話した。まるでその頃を思い出しながらという訳でもなく、ただ一冊の本を流して読むように。
そんな焔の様子を見つめていた狂鬼は、先を歩く焔の手へと腕を伸ばした。だがその手を掴む事は出来なかった。何故なら、その行動を蒼鬼に遮られてしまったからだ。
狂鬼は止めた蒼鬼の事を疑問に満ちた視線で訴えたが、すぐに狂鬼は顔を俯かせて歩みを止める。そして昔話を語る焔に聞こえないようにして、蒼鬼は狂鬼に告げた。
「止めておけ。無駄なのだ。……焔鬼は既に……あの日から壊れてしまっている」
「くっ……」
――グオオオオオオオオオオオッッッッ!!!!!!!!!!
「……昔話はここまでだな。茜の話もあったが、それは本人に聞くと良い。今は、餓鬼共を殺るのが優先だ」
「「「っ!?」」」「……」
焔は笑みを浮かべて、刀を抜いてそう言った。その瞬間に黒騎士たちの背筋が凍った。そこには歓喜に満ち、狂喜に染まった紅く輝く双眸が閃を引く姿があった。
目を疑う黒騎士たちの中には、目を細める酔鬼の姿もあった。だがしかし、無差別に敵対行動をし出している餓鬼を一蹴する事に意識を向ける。
「あの時の焔鬼は、……もう居ねぇんだな、本当に」
そう呟いた酔鬼はカチャリと金属音を立て、静かに引き鉄を引いた。
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