焔鬼 ～Enki～

第146話

　「……着いたか」

　人間界とオレが居た世界に足を踏み入れた瞬間、禍々しい妖力に満ちている空気がオレたちを包み込む。やがてそれは覆い被さり、重りとなってオレたちの体に負荷を掛ける。

　特に……長らく人間界で過ごしていたオレには、な。

　「……っ」

　「大丈夫か？焔鬼よ」

　「余計な気を回すな、蒼鬼。……酔鬼」

　蒼鬼の言葉に応えてすぐ、オレは渋々と着いて来ていた酔鬼へと視線を向けた。こちらに来る前に言葉を交わしたっきりだったが、しっかりと着いて来ているようだ。

　正直に言ってしまえば、妄鬼と同じ作戦を言い伝えられてる時点で……オレは未だに信用は出来ない。まぁ、それも妄鬼の妄言による物かもしれないが油断はしない。

　「何だ？焔鬼ぃ」

　「お前は一先ず、覇鬼の元へと戻ってろ。敵対行動をしているのは、あくまでオレたちだ。お前まで反逆者側になる必要は無い」

　「あぁっ？ちょっと待て、それはどういう意味だ」

　「そのままの意味だ。お前が覇鬼を裏切れるかどうか、出来るか出来ないかで考えれば……お前じゃ無理だ。この中で一番にあいつを気にするのはお前だ。酔鬼」

　「ぐっ……だ、だけどそれじゃ、お前らはどうするんだよ」

　珍しく感情的になる酔鬼。直情的な言葉ほど、その者の本心が視えるというが……何を動揺してやがるんだ酔鬼。お前はいつも、気楽にやりゃ良いだけなのに。

　「余計な事は考えるな。奴の下に戻れば、お前は晴れて密告者だ。オレの都合に付き合わなくて済むだけの話だ」

　「っ……違う！俺が言ってるのはそういう事じゃねぇんだよぉ！」

　「他の奴も良いのかって聞いてるんだ！相手は覇鬼だ！俺たちの父親みてぇな奴だ！そんな奴をお前は、……お前らは殺（や）れるってのかぁ？あぁ？」

　胸倉を掴れるオレは、少し空中へと浮かぶ。酔鬼が力強く胸倉を掴んでいる所為で、身体が浮かんでしまっている。その勢いに驚いた蒼鬼たちだったが、慌てて酔鬼を押さえようとしたがオレはその行動を遮るように口を開いた。

　「……お前らと本当に兄弟という訳じゃないが、それでも確かに奴が父親なのは変わりは無い。だけどな？酔鬼」

　「っ！？」

　オレは胸倉を掴む酔鬼の手首を掴み、威圧を込めて睨み付けながら告げる。

　「――オレは落とし子だ。人間と鬼の間に産まれた半端な存在だ。そして母親は数年後に目の前で殺されたんだ。私怨だろうが、父親だとか関係は無い。オレはただ、オレと茜の仇を取れればそれで良い」

　「姫さんの、仇？」

　「良い機会だ。お前ら全員に教えてやるよ。……オレが奴を恨む理由、な」