第145話

 「……」

 「そう不満そうな顔をしないで欲しいでござるな。拙者も今さっき知ったのだから、お気持ちは一緒でござるよ」

 「なら、貴方もこちら側になるはずではないですか?どうして焔様は私たちではなく、昔の同胞に協力を要請したのですか」

 「拙者を睨んでも何も出来ないでござるよ。……――」


 刹那に睨まれながら、村正は黒騎士たちへと視線を向ける。その視線を辿る刹那は、村正の隣に立ったまま黒騎士たちを見て言った。


 「貴方はどう思うのですか?彼らを信用出来ると?」

 「拙者が信用するのは刃を交えた相手と総大将のみ。それが答えられる全てでござるよ。刹那殿が信ずる物を信じれば良いでござる。決めるのは己自身でござるからな」

 「そうですね。……つまらない事を聞きました。忘れて下さい」


 刹那は目を細め、黒騎士たちを見据える。冷ややかな眼差しだったが、身を翻してその場を立ち去ろうとした。そんな刹那が何処に行くのかと思った村正は、振り返る事なく刹那に問い掛ける。


 「屋敷に戻るでござるか?」

 「ええ、焔様が必要としているのはあくまで彼ら。私は、そうですね……あの方がいつでも戻って来られるように、屋敷で宴の準備でもしておこうと思いますよ」

 「おお、宴でござるか。なら、拙者も手伝わない訳にはいかないでござるね」

 「ついでに一杯、付き合って頂けますね?」

 「お安い御用でござるよ」


 屋敷へと戻ろうとしている刹那と村正を見つめ、黒騎士たちは互いを見ずに言葉を交わす。


 「……酔鬼、あの者たちは味方だ。敵対してはならない」

 「はぁ、親方に何言われても俺は知らねぇぞぉ?」

 「安心しろ。何も私たちだけで攻めるのではないからな」

 「んあ?どういう意味だ?」

 「我らが黒騎士統括殿が戻る。……私は、それだけで充分だ」


 蒼鬼が歩み出すと、その後ろを狂鬼、剛鬼が続く。その様子を見る酔鬼は、やれやれと肩を竦めて後頭部に手を添えて立ち上がる。

 酔鬼が同行する意志を見せた時には、蒼鬼は焔の居る場所へと空間を切り裂いていた。やがて焔の居る場所へと辿り着いた時には、酔鬼と相対していた妖怪の姿があった。


 「よぉ……遅かったじゃねぇっスか。酔鬼」

 「あぁ?何でお前がここに居るんだぁ?……って、そういう事かよ」


 妖怪ハヤテの姿を見た酔鬼だったが、彼が抱えている人物へと視線を向けて溜息を吐いた。そして鬼化している焔へと視線を向けると、焔は静かに言った。


 「色々と言いたい事はあるが、まずは覇鬼を殺す。――話はそれからだ、酔鬼」

 「……あぁ、分かってる」

 

 横を通り過ぎた焔に対し、酔鬼は振り返らずにハヤテを見据えた。その視線を警戒したハヤテだったが、次の瞬間にその警戒は緩める結果となった。


 「――姫さんを頼むぜぇ?妖怪」

 「……誰に言ってるっスか。俺はアニキの右腕っスよ?」

 「フッ……」

 

 小さく交わされた言葉。ハヤテに抱えられる人物を見つめた酔鬼は、何も言わずに蒼鬼の開いた鬼門へと向かう。妄鬼を覗いた黒騎士が並んだ時、ハヤテは小さく頭を上げて焔に告げた。


 「総大将アニキ……お気をつけて」

 「あぁ……」

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