第123話

 「俺は風伯。あんたを殺す風神だ」


 そう告げたハヤテの容姿を見た酔鬼は、少し距離を取って見据えた。真っ白になった容姿、両手に握られた二つの武器。その神々しい異様な姿からは、力不足などという言葉は不相応だった。


 「風神、ねぇ。……なら俺の敵だなぁ、お前は」

 「……」


 そう呟いた酔鬼はニヤリと笑みを浮かべ、黒い影で銃を両手に出現させた。そしてハヤテの視界から姿を消失させ、常人では追い着く事の出来ない速度で移動を繰り返した。

 やがて間合いを取った酔鬼は、背後からの分身、正面からの本物の銃口をハヤテに突き付けた。そして完全に捉えたと思った瞬間、ハヤテは目を細めて言うのであった。


 「――全然遅いっスね」

 「っ!?」

 「――っ!!!」


 そう呟いた瞬間だった。銃口を向け、今すぐにでも引き鉄を引こうとした時、ハヤテは予備動作無しで酔鬼の事を斬り伏せた。瞬きで生じたほんの一瞬の隙、銃口を向けた酔鬼が引き鉄を引く前の僅かな時間。

 その短い一瞬の中で、ハヤテは酔鬼の事を斬った。それに目を見開いた酔鬼は瞬時に距離を取り、斬られた場所に手を添えながら口角を上げて言った。その表情からは、好奇心が伝わってきた。


 「へぇ……少しは殺れるようになったんだなぁ、お前」

 「俺は本気で殺る時は殺るっスよ。ただ、この力はあまり使いたくないのが本音っスね」

 「敵を倒すのは当然の事だぁ。それをどうして拒む必要があるんだぁ?」

 「だって俺はもう、無益な殺し合いはしねぇって誓ってるんスよ。けど、それはもうさっきまでっス」

 「んあ?」


 ハヤテの言葉に眉をひそめた酔鬼は、腰に手を当ててもう片方の手で顔を覆って小さくわらった。


 「くくくくく……くくくくく……良いなぁお前。じゃあ今度は俺の番だなぁ」

 「……?」

 「――


 そう言った瞬間、酔鬼は凄まじい妖力と黒い影に包まれた……。

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