第108話

 「……あぁ、私の身体は変わらないなぁ。スベスベだし、柔らかい所は柔らかい」


 焔と蒼鬼が戦闘する為に場所を変えてから数分後、人間だったはずの茜からは妖力が溢れ出していた。何故なら、眠っていたはずの茜が目覚めたからだ。それを感じ取ったのは、すぐ傍に控えていたハヤテだった。


 「……何処へ向かうつもりっスか?茜さん」

 「えっと、確か……君は、ほーくんが作った組織の一人だね。久し振りだね、って言った方が良いのかな?それとも初めましてかな?」

 「前者で良いっスよ。内側に居る人間の茜さんには申し訳無いスけど、もう隠す必要は無いみたいっスからね」

 「そうだね。それで、君はどうして私の前に出て来たのかな?ほーくんに言われて、っていうのは分かるけど……君に私を護る義務とか無いよね?」

 

 茜は挑発染みた発言をして、目を細めてハヤテの事を見据える。チリンと鳴る鈴の音が、茜が小首を傾げる度に鳴る。そして口角を上げた茜は、ハヤテの背後に回り込んで言った。


 「っ……」

 「私の動きすら見えない君には、私を護るなんて無理だよ。これでも私、ほーくん直々に戦う術も習ってるんだよ?知ってる?ほーくんって戦い方を教えるの、とっても上手なんだよ♪」


 ニコリと笑みを浮かべながらそう言う茜に対し、ハヤテは冷や汗を伝わせて振り返れずに居た。何故なら、ハヤテの背中には茜がクナイを突き付けていたからである。少しでも動けば刺す、それ程の殺気が背中を伝わっていた。


 「どういうつもりっスか?こんな事をしても、俺がやる事は変わらないっスよ」

 「それは知ってるよ。だから今するのは脅迫じゃなくて、お願いなの。ねぇハヤテくん、ここは見逃してくれないかな?」

 「っ……!?」

 「君がほーくんの命令に従いたいのは分かるよ。せっかく命を助けて貰ったんだもん。挙句に名前まで貰っちゃってさ、それはもう主人も同然。従いたいし、尽くしたいよね?けどさ、私はね?ほーくんたちの所に行かなきゃ駄目なの」

 「……」

 「だって、――この戦いになんて無いんだもん」

 

 その言葉に耳を疑ったハヤテだったが、次の瞬間に拘束が解除された。それは、茜の背後に姿を現した魅夜が目を見開いていたからだった。


 「よっと……危ないなぁ、もう」

 「ハヤテから離れて。ボクの仲間から、離れて」


 ブンと風を切る程の鋭さで格闘を振られるが、茜は涼しい顔をしながら余裕で回避した。やがて宙返りをしてから屋上の高台で着地し、茜はニコリと笑みを浮かべて背中で腕を組んだ。


 「へぇ、君も半妖だね。二対一は、流石に分が悪いなぁ。……ね、そう思わない?狂鬼ちゃん」

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