第83話
――時は遡り、およそ百年前。
ある集落で平和に暮らしていた一族の中で、小さな女の
「お父様、お母様、わたしにも狩りをさせて下さい!」
『駄目だ。お前にはまだ早い』
『そうよ。それに帰ったら訓練があるのだから、許してちょうだい?』
「えー」
小さな妖狐はムスッとした表情を浮かべながらも、両親の指示に従って集落の中で待機する。待機している間は、九尾の力で一人で遊ぶのを繰り返す日々。つまらないと感じながらも、両親の優しさは伝わっているものの納得出来ない様子だった。
集落の者たちに狩りをする習慣があるが、彼女のような幼い身で狩りに参加出来るのは人間であれば10歳にならなければいけないという規則があった。
「私だって……狩りぐらい出来るのに、過保護なんだから」
九尾の力を制御する為の訓練を繰り返す妖狐は、幼いながらも既に狩りを一人で出来る程の実力を有していた。訓練の中で自分で新たな訓練方法を導き、どう訓練すれば強くなれるのかの方法を自らの力のみで導き出していたからだ。
だが当時、彼女の潜在能力を知っているのは誰もおらず、それは彼女の両親も例外ではなかった。教えようとしても、狩りに出掛けては会話をするのは集落の今後の事。
そう。何を隠そう。彼女の両親は、その集落では纏め役も担っている立場であった。その為、産まれた彼女を放置せざるを得ない程に忙しい毎日を過ごしていた。それでも両親は、彼女と居る時間には愛情を注いでいた。
その愛情を感じ、伝わっているからこそ、産まれた彼女は両親に文句を言う事は無かった。
……あの日、集落が燃える光景を見るまでは。
「――っ!?」
『逃げなさいっ!!今すぐ!』
『逃げるんだ!!』
幼き妖狐へそう叫ぶ両親の声。耳に届いているにもかかわらず、彼女はその場から動けずに目を逸らす事が出来なかった。何故なら、そう叫ぶ両親の後ろで他の集落の者たちを斬り付ける黒い影。
その影はあらゆる武器を扱いながら、笑みを浮かべてその武器を振るっていた。溢れる血飛沫を浴びながら、狂喜を感じている様子で燃える集落で暴れ続けている。
『――――!!!』
「お父様っ、お母様っ!!!!」
彼女が手を伸ばす先で、その影は彼女の両親に武器を振るった。眼前にまで飛び散る赤は、彼女の視界を徐々に暗く闇に染めていく。
「はぁ~あ、もう終わりかよ。ったく、強いって聞いてたのに来てみればこの程度かよ」
「っ……殺してやるっ!!」
「あ?何だ、まだガキか。……へぇ」
彼女が攻めようと駆け出したのを見て、燃える集落の中から彼女の懐にまで移動した。その影は彼女の事を思い切りに蹴り上げ、一撃で意識を失う程の威力で蹴り落とした。
地面に叩きつけられた彼女は、途絶えそうな意識の中でその影の言葉を聞いたのである。
「最後のはなかなか良かったぜぇ。強くなったら、オレを殺しに来い。殺れるもんなら、だけどな。クククク」
そこで彼女――幼い妖狐だった杏嘉の意識は途絶えた。
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