第79話
黒騎士たちが人間界へやって来る少し前、焔は会合の後に刹那とハヤテを召集した。三人だけで蝋燭の灯りを囲み、薄暗い部屋の中で話し合っていた。
「今回の会合で黒騎士たちの情報は
「「……」」
焔がそう言うと、互いに顔を見合わせる刹那とハヤテ。そんな二人の様子を見て腕を組む焔は、少し微笑みながら問い掛けた。
「……不服か?」
「不服、って訳じゃないっスけど。納得は出来ないっス」
「私も同意見です。私たちよりも、他の者たちは焔様からの命令を望みます」
「お前ら、いつまでもオレが組に席を置くとは限らないんだ。近い将来、オレはこの鬼組の総大将を決めるつもりだ。今回の戦闘でも、成果を出そうと必死になって欲しいんだがな」
「アニキの言いたい事は理解出来るっス。けれど、今すぐに決める必要は無いんじゃないっスか?現状、アニキ以外に務まるのは想像出来ないっス」
「ハヤテさんに同意です。私もまだ焔様には、組にそのお姿を置いて欲しいです。今すぐという話でも無い限り、私が賛成する事は出来ません」
「強情だな。お前らは」
二人はそう言いながら、真っ直ぐに焔へと視線を向ける。そんな視線を受けた焔は、肩を竦めつつ呆れたような溜息を吐いた。
「――はぁ、分かった。この話は見送るとしよう」
「「っ……」」
焔がそう言った瞬間、安堵した様子で刹那とハヤテは笑みを浮かべる。だが焔は次の話題に切り替え、この集まりの意味である本題へと切り出した。
「さて、お前らに来てもらったのは他でもない。大体予想出来ているだろうが……」
「杏嘉の事、っスよね」
「その通りだ。回りくどく話すのは好かないから、直接的に言わせてもらう」
「「……」」
「杏嘉を援護する奴をお前らで選べ。あいつをあのまま放置すれば……――死ぬ」
焔がそうはっきりと告げた瞬間、ハヤテは目を細め、刹那は膝の上で作っていた拳を強く握り締める。二人とも、会合の際に杏嘉の事を見て感じ取っていたのだ。このまま戦闘に介入すれば、確実にその身を燃やし続けるという事を。
だからこそ、焔は二人を集めた。仲間であり、組の一員であり、家族である杏嘉を死なせない為に。
「しかし焔様、杏嘉さんも鬼組の幹部です。そう簡単に敗れるとは」
「あいつに実力があるのは知っているし、認めても居る。だからこそ、幹部に選んだんだ。だがな、刹那……黒騎士は別格だ。血を流さずに倒すなんて事は、オレでも至難の業だ」
「アニキの言う通りっスよ、姐さん。連中は俺ら幹部を三人衝突させてやっと倒せるかもしれない奴らっス。冷静さを欠けば、一気に蹂躙されるっス」
「……随分とお詳しいのですね。ハヤテさん、黒騎士の事は知っていた口ですか?」
刹那のその問いを聞いたハヤテは、一度だけ焔に視線を向けた。焔は軽く頷いて見せ、ハヤテは再び刹那へと視線を戻してその問いに応えた。
「――そうっスよ。俺は一度、黒騎士と戦ってるっスよ。それも命のやり取りで」
「良く生き延びましたね。逃げ帰った、という事でしょうか?」
「そうじゃないっスね。あ~、その黒騎士っていうのは今俺らの目の前に居るんスよ」
「は?」
「だから、アニキは元黒騎士っス。だから実力を知ってるんスよ」
「っ……!?!?」
本当なのですか!?と言いたげな視線を焔へ向け、刹那は身を乗り出すように驚いた様子を見せた。ハヤテは言い辛そうに言った事を見ていた焔は、何食わぬ表情を浮かべたまま焔は言った。
「ハヤテの言ってる事は本当だ。オレは元黒騎士で、焔鬼と名乗っていた事がある。黒騎士を辞めてからすぐ、そこに居る馬鹿に勝負を挑まれたという訳だ」
「まぁ結果はボロボロっスけどねぇ」
「…………」
涼しい顔をする焔と苦笑を浮かべるハヤテに対し、刹那はポカーンとした表情を浮かべてから気になった事を問い掛けた。
「あ、あの……これを知っているのは?」
「ここに居る奴だけだ」「ここに居る人だけっスよ」
「……――はぁ」
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