第70話

 ――時代を越え、この身が果てるまで護ると誓ったあの日。


 全てが始まり、長い年月が経った。いや、経ってしまったのだと改めて思う。

 だがこれは、オレの戦いであり、オレ自身が始めた戦争でもある。他の者を巻き込む事は出来ない。


 『……――――!!』

 「よぉ、餓鬼共。探し物か?」


 蒼鬼が亀裂から召喚している餓鬼は、人間の魂の中に眠る負の感情から出現している。その出現を抑えるには、負の感情を抱える人間自体をなんとかしなくてはならない。

 でもそれはつまり、人間を全て殺すという選択を選ぶ事に直結してしまう。オレがもし生き残り、この世の全てに人間が居なくなっている状態で茜の記憶を戻しても意味が無いだろう。

 そんな事をすれば、オレが茜に叱られるに決まっている。


 「どうした?来ないなら、こっちから行くぞ」

 『――!!!』


 まずは仲間を増やさなければならない。そして拠点を作り、蒼鬼を含めた鬼門六人衆である黒騎士を滅ぼさなければならない。その為にはオレだけの力では足りない。

 例え数百年掛かったとしても、戦力を整えて黒騎士を滅ぼす。二度と茜に危害を加えられないようにしなければ、オレたちに安息は訪れない。

 殺るか殺られるかのどちらかであるならば、こちらから先手を打つ事は必然だ。だがその前はまず、この目の前の餓鬼の大群をなんとかしなければならないのだが……


 「クハハ……いや、問題は無ぇか。――鬼火、暗獄鬼あんごくき!」


 オレの身体がいつまで持つか知らないが、妖力の大盤振る舞いをすれば一網打尽だ。邪魔する者は全て叩き潰す。それがオレの決めた戦いであり、オレが始めた戦争である。



 …………………………。

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 ……。


 「んん……?」


 ボーっとした思考回路のまま、オレは自分の目を擦りながら起き上がる。どうやらオレは、長い居眠りをしてしまっていたらしい。既に夕暮れに染まっている外を見れば、どれだけを時間を眠っていたのかが理解出来る。


 「起きましたか?焔様」

 「……刹那。ずっとここに居たのか?」

 「はい。気持ち良さそうに寝ていらしたので、起こすのがはばかられました。ふふ」

 「可笑しな事はしてないだろうな?」

 「まさか、そんな事をするような愚か者と思っているのですか?ただ単に、私は焔様の寝顔を堪能たんのうさせて頂いただけですよ」


 他人の寝顔を眺め続けるのもどうかと思うが、オレは欠伸をしながら椅子から立ち上がった。首の骨や肩の骨を鳴らしていると、刹那は真剣な面持ちでオレに言った。


 「――焔様、杏嘉さんから報告があるようですよ」


 その言葉を聞いた瞬間、オレは先程までの夢でくすぶっていたのかもしれない。つい妖力が溢れさせながら、振り返って刹那に言った。


 「へぇ」

 「っ……!?」

 「良いタイミングだな。刹那、組の奴らを全員集めろ。会合を開く。手の空いている者は至急、オレの前へ来いとな」

 「っ、ハッ!」


 さて、殲滅の時間の前準備と行こう。今夜は少し、血が火照ほてりそうだ。

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