第42話
「それでお前は、ここで過ごしてたって訳か?」
「……うん」
彼女の過去話を聞きながら、オレは腐り掛けている壁に背中を預けた。外が見える事に恐怖心を抱くのか、明りが見える入り口から離れてオレの隣で座り込む。微かに警戒心があるものの、オレの身体に触れるか触れないかの距離で座る。
入り口から離れれば、外の様子が見えなくなる。そっちの方が不安に駆られると思うのだが、彼女の場合は違うようだ。
「……」
「……?」
それにしても、この場所に彼女一人で良く今まで生き延びた物だ。例え、妖怪の血が混ざっていても腹が減る時は減る。妖怪の場合、数年間は何も食べなくても生き延びる事は出来る。
だがしかし、彼女の話ではオレたちが来るまでの食生活の話は出ていない。ならば、何も食べていないと考えても間違っては居ないだろう。そして、ここまで衰弱しているのも確かだ。
オレはそう思いながら、背中を預けている壁を二回叩いた。
『はい、何でしょうか?』
「っ!?(え?壁が喋った!?)」
「悪いが村に居るハヤテたちに伝えてくれ。宿屋で握り飯を三つ買って来いってな。ついでにお前も何か食って来い」
『畏まりました。伝えたらすぐに戻って来ます。では』
自分も食って来いと伝えたのにもかかわらず、そう言って気配は村へと向かって行った。あの仕事馬鹿は主人の言う事を聞かずに戻って来るようだ。
「はぁ、やれやれ……ん?どうした」
「あ、えっと……いつから外に人が居たの?」
「んあ?最初からだ。オレが来た時からずっとな。あいつは気配を消すのが仕事のようなもんだから、あまり気にしなくて良いぞ」
「は、はぁ……(気配を消すのが仕事って、忍者か何かなのかな?背中からサクッとされたりしないよね……?)」
何かを心配したような表情を浮かべながら、壁を何度も軽く叩いている彼女。他にも誰かが居るのかと思っているのだろうが、残念ながら影ながら護衛しているのは一人だけだ。
他の者たちは村の外で待機してもらっているが、緊急時であれば彼女が目にする事もあるだろう。
まぁそんな事は、無いに越した事は無いんだろうけどな。
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