第17話

 「……っ」


 茜は緊張していた。それは周囲の者たちの容姿が影響しているものだった。

 周囲に居る者の容姿には、人間に近い者も居れば、全く近くない者までも居る。その様子を見た茜は、この場はではないと確信した瞬間だった。


 「そう警戒するな、と言っても無理な話か」

 「え、えっと……」


 焔の言葉を聞いた茜は、目の前で頬杖をしている彼の姿を見た。初めてまともに見たのだが、茜は記憶との差異がある事に気が付いた。


 「(あれ?あの時と……髪の色が違う。それに雰囲気が)」


 茜の疑問の込められた視線を感じ、焔は少し口角を上げて口を開いた。


 「どうした?オレの顔に何か付いてるか?」

 「あ、いえ……その、昨夜と雰囲気が違うなぁって思いまして」

 「雰囲気が?あぁそうか。あの時はを使っていたし、から違うのは当たり前だ」

 「血が熱くなってた……?」


 焔の言葉に疑問を覚えた瞬間、彼の言葉に意見を挟むようにして彼女が少し前に出た。


 「焔様。彼女にそのような説明は不要かと思いますが?」

 「……確かにそうだな。悪かった、刹那。他意は無いから安心しろ」

 「ならば構いませんが。……それよりも、彼女を助けた理由を話すのでは無かったのですか?」

 

 刹那がそう告げると、「え?」と小さく茜は声を漏らした。自分があの時、彼から助けられた事を再認識したのだろう。それを自覚した途端、茜はあたふたとしながらペコペコと頭を下げ始める。


 「あ、あのあの……助けてくれて有り難う御座いました!!」

 「……」


 土下座にも近い姿勢で礼を述べる茜に対して、焔は目を細めて口を開いた。


 「――別に気にする事じゃない。というか、お前はオレに礼を言う必要は無い」

 「え?」

 「オレはお前をおとりにしたんだ。としてな。だから、お前はオレに礼を言う必要は全く無い。むしののしっても良いくらいだ」


 焔の言葉に嘘は無い。彼の言う通り、今回の餓鬼の出現は分かっていた事であり、その標的が『由良茜』であるという事は既に把握していた事だった。だからこそ焔は、茜を囮にする為に網を張っていたに過ぎない。

 だから礼を言われる筋合いは無いという事を告げたのだが、茜は焔の事を真っ直ぐ見た上で言うのであった。


 「それでも、私は貴方に感謝してます。囮にされた事はびっくりしましたし、凄く恐かったから言いたい事はたくさんあります」

 「なら……――」

 「でも、貴方が私を助けてくれた事実は変わらない!だから言わせて欲しい!……――助けてくれて、有り難う御座いました!!」

 「フッ……真っ直ぐな奴なんだな、お前」


 そう告げた茜に対して、焔は今までの無愛想を崩して笑みを浮かべた。崩したと言っても微笑んだ程度の表情ではあったが、茜はその表情から目を離す事が出来なかった。

 この瞬間、由良茜は彼に心を奪われた日となった――。

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