第10話
絶望を感じた。
それを見た瞬間、私はもう死ぬのかという恐怖を感じた。いや、確実に死を迎える確信が何故かあった。それはこの世とは思えない何かで、決して出会ってはいけないという事を理解出来たからだ。
『見ツケタ』
その声は喜んだ様子で、そして悪意を感じる事の出来る声だった。善意とか悪意とか、別に詳しい訳じゃないけれど……それでもそれが悪意だという事は一目瞭然だった。
まるで餌を見つけたような、そんな風な言い方だったから。
「オレの町で、気安く人間に手を出してんじゃねぇよ」
「え……?」
でも絶望の中で、それは希望だと思ってしまった。寒かった心が一気に温もりを帯びて、感じていた恐怖心が嘘のように消え去っていたのだ。
まるで灰色に包まれた薄暗い空から、一筋の光が差し込んだかのように。
「……綺麗」
私の目の前に居たのは、炎に包まれた少年だった。鼠色の髪の毛を風で揺らし、一振りの刀を輝かせている。その周囲には彼の動きに合わせているかのようにして動く炎は、まるで炎自体が生きているのではないかと錯覚してしまう程に活発だ。
私は目の前に居た恐怖よりも、既にその少年に目を奪われてしまっていたのだろう。動きの一つ一つから目を逸らす事が出来ず、気が付けば普段使わない言葉を使ってしまっていた。
「呆けてる場合?死にたいの?」
「っ……!?」
ボーっとしていた時だった。真横から頬を
「警戒しなくて良い。一応、今は味方。焔が頑張ってる間、ここから離れて」
「ほむら……?」
私の手を引こうとする少女の言葉の中で、人の名前らしきワードに反応してしまった。手を引かれながらも、私は周囲の炎を操る少年の姿から目を逸らす事は出来なかった。
「(ほむら……ほむらって言うんだ。あの人……)」
「……余所見しないで」
「あ、あぁ、うんっ」
少女の一言によってそんな思考は遮られ、私はその場から離れる。目の前で引っ張るこの少女は何者なのだろうか、助けてくれたあの少年は何者なのだろうか。
そしてもう一つ、私は彼と話せるだろうかという淡い期待を寄せるのであった。
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