第3話 小さな子へのごちそう
数日後、訪れた
「え? その占い師の方が視てくださったんですか? え? 占い師さんってそんなことまでできるんですか?」
「判らないんですけど、そのお客さまにはできたみたいです」
「はぁ〜凄いんですねぇ」
三浦さんは感心した様な声を上げる。
「そうですか。男の子ってことは入院は小児病棟だったんでしょうけどICUは共通なので、もしかしたら最後はそこで迎えたのかも知れませんね。それで美味しいものが食べたいって暴れてると」
「はい。視てくださった占い師のお客さまはそうおっしゃっていましたよ」
「美味しいもの、美味しいもの、う〜ん」
三浦さんは腕を組んで
「美味しいものかぁ〜。私は料理あんまりできないし、実家に頼むのも申し訳無いし、コンビニとか、あ、デパ地下とかで選べば良いのかな」
「三浦さん、よろしければ私たちでお作りしましょうか?」
「定休日の月曜日になっちゃいますけど、それでもよろしければ」
三浦さんは「ええっ?」と驚くと、ぶんぶんと手と首を振る。
「と、とんでも無いです! せっかくのお休みの日に、いえお休みでなくてもお願いできませんよ!」
佳鳴は「いえいえ」と表情を崩さない。
「大丈夫ですよ。それにこれは、その占い師の方流に言えば、ご縁なのだと思うんです」
「縁、ですか?」
「はい。三浦さんが私たちにご相談くださって、私たちがそのお話を占い師さんにお伝えした。その方はそれをご縁だとおっしゃって、視てくださったんです。なので私たちもその一部なんじゃ無いかなって。なら私たちは私たちができることをさせていただこうかと。占い師さんは原因を視る、私たちはそのお助けになる料理を作る、そして三浦さん方がご供養をする」
「供養。そうですね。病院では生まれることも亡くなられることも日常茶飯事で、そういう大切なことを忘れがちになってしまっているのかも知れません。もちろんその時その時にはおめでたいとも悲しいとも思います。でも業務に埋もれて流れて行ってしまうんですよね。仕事柄どうしても引きずることはできません。患者さんは大勢いますから。でももう少し心に留めるのも必要なのかも知れませんね」
「そうですね。ご多忙で難しいかも知れませんが、亡くなられた方を
「はい。心掛けようと思います」
三浦さんは神妙な表情で大きく頷いた。
善は急げと次の定休日、佳鳴と千隼は三浦さんの病院にお持ちする料理を作る。小さな男の子が喜びそうなメニューと言えば。ベタではあるのだが。
「じゃ、作ろうか」
「おう」
買い物は昨日の買い出しの時に一緒にしておいた。これが佳鳴と千隼のランチにもなる。
まず千隼は玉ねぎをスライスする。牛肉は切り落としなのでそのまま使う。火に掛けた鍋にオリーブオイルを引いて玉ねぎを入れて、少量の塩を振ってしんなりするまで炒め、牛肉を追加してさらに炒めて行く。
牛肉の色が変わったら水を入れて煮込んで行く。あくが出て来たら丁寧に取り除き、さらに煮込んで行く。
その横で佳鳴は玉ねぎをみじん切りにする。パン粉を小さな器に入れ、牛乳を入れて湿らせておく。卵も割って解しておく。
ボウルに合挽き肉とナツメグを入れ、手でよく練って行く。白っぽくふんわりもったりとして来たら溶き卵を入れてまた混ぜ、玉ねぎとパン粉、塩胡椒を入れたらざくざくと混ぜて行く。
それを小判に形作り、オリーブオイルを引いたフライパンで中火で焼いて行く。これは2、3分ほど経ったらひっくり返し、焼き目を付けたら弱火に落として、蓋をして蒸し焼きにする。
千隼も作業を進めて行く。玉ねぎを角切りにし、マッシュルームはスライス、鳥もも肉も小さめの角切りにしておく。
そのタイミングで玉ねぎと牛肉を煮ている鍋の火を止め、カレールーを入れて溶かしたらまた火を付けて煮込んで行く。
さて、新しいフライパンを用意する。オリーブオイルとバターを引いたらまずは玉ねぎを炒める。透き通って来たら鶏肉を加えて、色が変わるまでしっかりと炒め、マッシュルームを入れてオイルが回る様にさっと炒める。
そこにケチャップと少量のウスラーソースを入れて、余分な水分を飛ばす様に炒めて行く。そこに白米を入れる。炊きたてでは無く、あらかじめ炊いて一度冷凍し、解凍して温めたものだ。
全体にしっかりと混ぜ合わせ、塩と胡椒で味を整えたらチキンライスが出来上がる。
そのフライパンは一旦コンロから上げておき、佳鳴が新たなフライパンを出す。オリーブオイルとバターを引いて、塩と少量の牛乳で調味した卵液を流し入れる。
しっかり目に火が通ったらチキンライスを乗せ、フライパンを動かしながらターナーも使い巻いて行く。オムライスの完成である。
それを、煮物屋さんで持ち帰り様に使っている、深みのある使い捨て容器に入れる。
煮込んでいる鍋に湯通しした冷凍のグリンピースを入れてさっと混ぜたら、カレーソースが出来上がる。
蒸し焼きにしていたものももう出来上がり。念のために串を刺すと透明の肉汁が上がって来た。ハンバーグの完成だ。
それをオムライスに添える。そして空いたところにカレーソースをとろりと掛けた。
「小っちゃい子が大好きな御三家だな!」
「本当にベタだけどねぇ」
「それが良いんだって。俺らが小さい時も、父さんよく作ってくれただろ」
「そうだったね。てことはそれが好きで、それだったらたくさん食べたってことなんだろうしねぇ」
「じゃあ粗熱取ってる間に俺らも飯にしようぜ」
「そうだね。オムライスの卵はオムレツ乗っけるので良いよね? 持って行くのは小ちゃな子が喜びそうな巻き方にしたけど」
「充分充分。あっちは持って行くから卵固めにしたけど、オムレツはふわとろで頼むな」
「了解。半熟だと食中毒とか怖いしね〜」
佳鳴がフライパンにオリーブオイルとバターを落とす
「て言うかさ、俺はまだ幽霊とか信じきれて無いけどな」
そう言う千隼に、佳鳴は「でもさぁ」と笑う。
「そう言いながらも、こうして大切な常連さんのために定休日を使ってくれるんだもん。私は良い弟を持ったよ」
千隼は照れた様に「うっせ」と言い放った。
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