第81話 テミスの失態
明けましておめでとうございます。
本年も、どうぞ宜しくお願いいたします。
今年2月5日にはいよいよ、本作『生き返った冒険者のクエスト攻略生活』が、ドラゴンノベルスより発売となります。
何卒、ご購入の程宜しくお願いいたします。
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「了解です。テミスさん、お願いします」
「おおよっ!」
ユートに請われて、テミスが鼻息荒く前に出る。
森の奥から現われたのは、Dランクのダークビット。ソルジャーとチーフの集団だった。
その魔物に、テミスは斬り掛かる。
「牙流剣術〝食突(くらいつき)〟!!」
幼い頃からその身に修めた牙流剣術は、テミスの意のままにダークビットの首を穿つ。
しかし、テミスの剣はダークビットの首に食い込み、停止した。
「なっ――!?」
首を切り落とせなかったのは、剣の切れ味が悪かったからではない。
攻撃の威力が足りなかったためだ。
これまでのテミスならば、ダークビット程度一撃で葬れた。
にも拘らず威力が足りなかったのは、テミスの職業にある。
テミスは先日より、盾士の職業に就いた。
それによって、テミスの能力は大幅に変化した。
○テミス(19)
○レベル25 ○職業:盾士
○スキル
・基礎
├筋力Lv3
├体力Lv2(+)
└敏捷Lv2
・技術
├剣術Lv3(-)
├盾術Lv1(+)
├受け流しLv1(+)
└気配探知Lv1
・特技
【牙術】【空中機動】【頑強】
得意だった剣術にマイナス補正が付いた。
現在剣術はレベル3だが、このマイナス補正によって、体感レベルが2程度まで下がってしまっている。
これが、ダークビットを一撃で葬れなかった原因だ。
テミスは盾士に就いたときから、剣術レベルの低下を自覚していた。
にも拘らず、ダークビットの体で刃が止まるまでそれに気づけなかったのは、ユートに勝とうとばかりしていたせいだ。
己の攻撃力の無さに呆気にとられているうちに、ダークビットチーフが、ソルジャーに指示を出した。
フリーになったソルジャーが、最も弱そうに見えるエリス目がけて突進した。
「くっ!」
慌てたテミスが剣を引き、盾に力を込める。
盾術〝挑発〟を行うも、既に遅い。
ソルジャーは既に、エリスの目と鼻の先にいる。
「しまっ――」
エリスが切り刻まれる未来を想像し、テミスの背筋が凍り付いた。
次の瞬間、
「しっ!」
エリスに向かっていたソルジャー二体から、同時に首がぽろりと落下した。
ソルジャーの横に、いつの間にか刀を抜いたユートが佇んでいた。
その光景から、テミスはソルジャーの首を落としたのは、ユートだとわかった。
(なんも、見えなかった……)
しかしテミスは、ユートの攻撃を一切目で捕らえることが出来なかった。
たった一瞬の戦闘でテミスは現実を、嫌というほど思い知らされた。
(オレはもう、剣士じゃねぇんだな……)
テミスは強い剣士を目指してきた。
どんな魔物でもたちまち倒してしまえる剣士だ。
その夢は既に閉ざされてしまったのだと、テミスはようやく実感した。
(それじゃあ、これまでのオレの努力は、決意は、なんだったんだ……)
激しい喪失感が胸を締め付ける。
その時だった。
「テミスさん後ろ!!」
「――ッ!」
ユートの声で、テミスは我を取り戻した。
まだチーフが死んでない。
振り返りざまに、テミスは盾を付き出した。
――シールドバッシュ。
その盾が、チーフからの攻撃を弾いた。
さらに勢いは留まらず、チーフの体を大きく突き飛ばした。
突き飛ばされたチーフの眼球に、いくつもの針が突き刺さる。
――ダナンの攻撃だ。
その針が脳髄まで達したか。
チーフはしばし体を痙攣させた後、動きを停止した。
「お疲れ様でした。テミスさん、大丈夫ですか?」
「あ、ああ……」
ユートの言葉に、テミスは上の空で頷く。
先ほど放ったシールドバッシュは昔、父から学んだ技術だった。
剣士になると決めてから一度も使わなかったため、完全に忘れていると思っていた。
だが、体はかつての努力を覚えていた。
無論、シールドバッシュは幼い頃に学んだ技術だけで行えたわけではない。
チーフを突き飛ばせたのは、職業によるプラス補正が大いに働いた結果である。
自分が冒険者として積み重ねてきた実力ではない。
それでもテミスはこの状況に、なにかを気づかされた気がしたのだった。
テミスが漏らしたダークビットが、まっすぐエリスに向かった時、優斗は慌てて全力で地面を踏んだ。
すると、これまでよりも体が急加速した。
靴がしっかり地面を捕らえたため、力が無駄なく加速に繋がったのだ。
おかげで、エリスに指一本触れさせずに、ダークビットを討伐することが出来た。
冷やっとはさせられたが、誰もなんの被害も受けなかった。
だがこの一件で、エリスがいたく憤慨した。
「盾士なのに、攻撃に夢中なのはおかしいです! そのせいで、すごく危なかったです!!」
狙われたエリスが怒るのも当然だ。
盾士は後衛を守ることが仕事なのだ。
その仕事を放棄して魔物を倒すことに夢中になっていては、優斗が盾士を雇った意味がない。
優斗が盾士を雇ったのは、殲滅力を上げるためではない。
あくまで様々な角度から狙われるフィールドで、より安全に狩りをするためである。
怒れるエリスを宥めながら、優斗はテミスに告げる。
「テミスさん。ここからはスタンダードに行きましょう。もし魔物を漏らしても、僕とダナンさんがしっかりフォローしますから、安心してください」
具体的な欠点は指摘せず、優斗はそれだけを口にするに留めた。
優斗は様々なパーティに所属してきた。
所属したパーティは、和気藹々としたものばかりではない。
中には常に殺伐としていて、僅かな連携の齟齬をきっかけに解散したパーティもあった。
長年冒険者をやってきた者には、それ相応のプライドがある。
叱責や嫌味で相手のプライドを刺激しても、状態が改善するわけではないのだ。
「あ……ああ、わかった……」
今回の一件で思うところがあったか、はたまた優斗の助言が通じたのか。
そこからのテミスは、盾士としてスタンダードな動きに変化した。
接敵すると盾術の〝挑発(タウント)〟で敵意を引き、魔物を固定する。
魔物の攻撃を封じながら、攻撃役が攻撃するタイミングを作る。
作業は単純だが、魔物の攻撃を受けとめる勇気がなければあっさり崩れてしまう。
崩れればパーティが瓦解するため、盾士はパーティにおいて、非常に重要なポジションなのだ。
初めてダークビットに遭遇して以来、テミスは盾士としての役割を完璧にこなしていた。
まるで、それ以前とは別人になったと思えるほどの切り替わりだった。
「ふんっ。ちゃんと動けるなら、最初からそうしていれば良かったんです」
テミスを嫌っている節のあるエリスでさえ、突っ込みどころが見当たらないようだ。
それほどまでに、テミスの動きは完璧だった。
(まるで初めから盾士だったみたいだなあ)
それが優斗の評価だった。
一日を終えて、優斗らが倒した魔物は50に登った。
ダンジョンは魔物が密集しているが、森の中は違う。
にも拘らずこれほど魔物が倒せたのは、ダナンの索敵が優れていたことも理由の一つである。
しかし、
「ちょっと、魔物が多かったですね」
「だな。俺が索敵しただけじゃ、ここまで倒せねぇ」
やはりギルドが言っていたように、森に生息する魔物が増加しているのは間違いない。
このままでは、スタンピードが起こる。
そうならないように、優斗らは魔物の間引きに当たっているが、万が一スタンピードが発生すれば、高い外壁のあるクロノスとてただでは済むまい。
スタンピードを防ぐため、クロノスを守るため、重要な仕事だ。
責任の重大さに気がつき、優斗はぶるりと体を震わせるのだった。
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