第78話 パーティに足りない人材は

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 優斗は冒険者になって、初めてギルドの個室に案内された。

 この個室は、冒険者にとって特別な場所だった。

 ギルドから指名されるような、実力者でなければ立ち入ることさえ出来ない。


 そのためギルドに個室へ案内されるこということは、冒険者にとってかなりのステイタスだった。


 そんな場所を訪れた優斗は、


(すごい、革張りのソファなんて初めて見た! この絨毯、靴で上がっていいのかな? 靴、脱いだ方がいいかな……。はわわ!? ガラスのコップにお茶が入ってる! どうしよう!?)


 完全に挙動不審になっていた。

 革張りのソファ、絨毯、ガラスのコップ。

 いずれも優斗にとって、超高級と言っても良い品だった。


 そんなものを前にした優斗は、超高級品を壊さないか、汚さないか。そればかりが気になって仕方がなかった。


 慎重にソファに腰を下ろす。

 これまで感じたことのない柔らかい座り心地に、優斗は心臓を鷲づかみにされた。


(なにこれ柔らかい! スライムに座ってるみたいだ!)


 優斗はソファのふかふか具合を堪能する。

 そんな優斗を見て、職員が苦笑した。


「お話をさせて戴いてもよろしいでしょうか?」

「は、はひっ!」


 優斗は慌てて姿勢を正した。


「さて、では指名依頼の内容についてご説明させて頂きます。依頼内容ですが、クロノス外で魔物を討伐して頂きます」

「討伐任務、ですか」

「はい。昨今、クロノス外に生息している魔物が増加傾向にあります。特に南の森に生息する魔物の増加が顕著でして……。魔物が増えすぎますと、大氾濫(スタンピード)が起こる場合がありますので、ギルドとしては早急に手を打って起きたのです」

「スタンピード……」


 優斗から、浮き足だった気分が一気に消散した。


 スタンピードは、魔物がその生息域から大量にあふれ出す現象だ。

 一度にあふれ出す魔物の数は、五千とも一万とも言われる。


 スタンピードが起これば、最低でも発生源近くの街が壊滅する。

 最悪、一度のスタンピードによって国が滅んだこともあるほどである。


 とはいえ、年に何度も起こる現象ではない。

 優斗が知る限り、直近のスタンピードは四年前だ。


 このスタンピードが発生する原因は、いまだにわかっていない。

 最も有力な説は、生態系ピラミッドの乱れだ。


 森の中にゴブリンしかいなければ、どこまでも繁殖し続ける。

 しかし、そこにドラゴンが一匹居れば、ゴブリンは溢れるほど繁殖しない。

 これが、バランスのとれた生態系ピラミッドだ。


 スタンピードは、なにかしらの理由でゴブリンの繁殖速度が上がった、あるいはゴブリンを減らすドラゴンが居なくなったために起こると考えられている。


「今回、ユートさん方には南の森にて魔物の間引きを行って頂きます。魔物の討伐数に指定はありませんが、最低でも20匹は討伐して頂きたく思います」

「お……多いですね」


 最低でも20匹。

 その言葉に、優斗は表情を引きつらせた。


 ダンジョンであれば、普通にクリア出来る数だ。

 しかし、街の外はダンジョンほど魔物と遭遇しないものである。


 クリア出来ないのではないか。

 そんな不安を解消するように、職員が微笑んだ。


「その点については、ご安心ください。先ほど申し上げました通り、現在南の森では魔物が非常に増加しております。決してクリアが難しい数値ではありません」

「そうですか」


 その言葉に、優斗はほっと胸をなで下ろす。

 これで、問題の一つが解決した。

 もう一つ、優斗には気がかりなことがあった。


「一つ伺いたいんですけど、よろしいですか?」

「はい、なんなりと」

「今回の依頼で、助っ人を紹介して頂くことは出来ますか?」

「えっ?」

「どういうことだユート」


 優斗の言葉に、ダナンとエリスが訝しげに眉根を寄せた。

 先日、インスタンスダンジョンαを攻略した時だ。優斗はこのパーティに足りないものを自覚した。


 普通のダンジョンならばこのままでも、しばらくは問題ない。

 だが、開けた場所で狩りを行うのであれば、優斗はどうしてもパーティに欲しい役割があった。


「この前のインスタで、盾士が欲しいって思ったんです。開けた場所だと、僕だけじゃカバーし切れない場面が多々あったので」

「あー。そう言われると、確かにそうかもな。盾士がいたほうが、間違いなく安定する」

「……です」


 事情を説明すると、ダナンは納得したように何度も頷いた。

 エリスはというと、納得はしているが肩を落として俯いてしまった。

 優斗が口にした『カバー』が、自分のことだと理解したためだ。


 エリスは回復術士だ。

 パーティの生命線であるため、魔物の脅威から守護するのは当然だ。


 荷物持ちだった頃の優斗みたいに、回復術士はお荷物だから守られるわけではない。

 守られることは、決して恥ではない。


 そう言うように、優斗はエリスの頭を優しく撫でた。


「今回の依頼に関したご紹介ですと、ご紹介出来る人材に覚えがございます。ただ、こちらは依頼料から紹介料を差し引いた上で、報酬が人数割りになってしまいますが、よろしいですか?」

「もちろんです」


 優斗は頷く。

 仲間が安全になるのなら紹介料は必要経費だし、そもそも優斗のパーティは報酬を頭割りにしている。

 紹介を断念する理由はない。


「そうしましたら、今回の討伐期間と、報酬についてご説明いたします」


 討伐は全部で一週間。

 依頼料は一日一人一万ガルド。プラス魔石の買取額が上乗せされる。


 盾士の冒険者を雇い、仲介料を引かれた上でこの金額である。

 かなり美味しい仕事だ、と優斗は思った。


 依頼を引き受けた後、優斗らはパーティに臨時で加わる盾士の到着を待った。

 ギルドが助っ人として名前を挙げる人物である。

 どんな強い盾士が現われるのかと、優斗はドキドキしながら到着を待った。


「入るぜ」


 優斗らが待機する個室に、ギルドが推薦した盾士が現われた。

 盾士の到着に、優斗は素早く立ち上がる。


 入り口を見た優斗は、その顔を見て固まった。


「――えっ!?」

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