第3話



 百合ヶ丘学園は中高一貫校で、一学年300人以上いるマンモス校だった。


 学年毎に校舎が分かれていたから他学年の生徒に会う機会は限定されている。登下校、朝会、移動教室、あとは委員会活動。クラブに入ってるヤツはクラブ活動。全体的に青春にはつきものの熱血とは無縁の高校だったように思う。


 そこに何か不自由があるということはない。むしろ干渉し合わない環境ゆえ、上級生とか下級生とか区分がなく、校舎裏に呼び出し、からの締め上げとかそんなイベントも発動されることがなかったから気楽に高校生活を過ごしていた。


 そんな緩い学園内でも特別目立っていたのが桜木 健人けんとだ。

 どこにいてもわかる。本人も目立つけど、それ以上に目を引いたのがその取り巻きの多さだ。自然と集団に目がいく。結果その中心には必ず桜木先輩がいる、といったスムーズな流れでウォーリーよりも簡単に見つけ出せた。


 女子にはもちろん、男子からも人気だった。大口開けてバカ笑いしている時はだいたい男子といる時。盛り上げようとしてるところから、意外と気遣い屋なんだなーと思ってた。

 

 初コンタクトは俺が高校1年。桜木先輩は3年の時。俺は帰宅部、かたや先輩は生徒会の副会長。さらに2年棟を挟んでいるため接点は皆無。会うことも、まして話すこともない。先輩は雲の上の存在だった、そんな時。


 その日はツイてなかった。

 遅刻5回。ボーナスステージで朝から担任の説教を食らい、反省文用の白紙の原稿用紙片手に戻ると教室は既に空。薄情なクラスメイトは美術室に移動済み。


 梅雨入りしたばかりの天候は不安定で、晴れ予報だったはずなのに外は突然雨が降り出す。それでも(今日ぐらいは)遅れまいと、中庭を突っ切る最短ルートを選択して飛び出した。


 小雨だからまだ行ける。

 2年棟をぶっちぎって専科棟に駆け込むところで、俺はそれを見つけてしまった。考えるより先にゾワッと総毛立つ。


 中庭の奥、誰も近づかない古い物置小屋の影に人の足が見える。


「え……」


 いやまさか、こんなにのんびりした学校にカツアゲとかイジメとか、リンチとかそういうおどろおどろしい事件的なもんとかないだろ?得体の知れない緊張感に背筋が引きつる。


 その場に足止めするかのように、さらに雨が激しくなる。結局、全身ずぶ濡れで前髪からは大きな水滴が落ちてくる。

 

 なんなんだよ!裏ルートなんて使うんじゃなかった…


 自分の運のなさにうんざりしてため息が出た。


 基本は他人に無関心。それでもこのまま放置というわけにはいかない。それぐらいの良心は備わっている。一通り諦め作業をしてからそれに近づく。


 上履きがはっきり見えて、生徒か〜!と余計に気が重くなる。この場合、先生が倒れてるとか、そっちの方がまだ良かったような…こんな人気のない場所に倒れてるってことは、つまりは何かがあったに決まってる。血だまりとか、血の海とか?


 覚悟を決めて、そっと物置小屋と校舎の隙間を覗き込んだ。


「おぉっ!」


 空を見上げていた死体が俺に気付き、跳ね起きる。


「ビックリした!あ、そのタイは1年生?なになに?一緒に水浴びする?」


 死体は嬉しそうに笑いながら手招きする。



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