第2話

 撮り終えると早々に若い女性スタッフに送り出される。満面の笑みで、でも左足のつま先はしっかりとスタジオを向いている。はいはい邪魔はしませんよ?わかりやすい“拒絶”だ。


 裏口から表通りに出て人の流れに乗っかってしまえば、俺自身は「一般人」というカテゴリーからはみ出ることはない。誰も振り返らない。声をかけられることもない。晩飯、なに作ろうかな?とか日々の悩みを繰り返しながら駅に出る。


 駅前は制服で溢れていた。ちょうど下校時間と重なったようだ。


 マニアでもないのでどこの学校の制服かはわからない。でもその中に母校 百合ヶ丘学園の制服を着た男子高校生を見つけた。ブレザーに男子はチェック柄のスラックス。10年以上経った今も制服は変わらないようだ。


 百合ヶ丘学園は都心から離れた辺鄙な場所にある。学校の最寄り駅からここまでだと、およそ1時間30分。遠く離れたこの駅で生徒を見たのは初めてで、食いつくように見てしまう。不審者にならない程度に。


 昔はネクタイの色で学年が見分けられたけど、今はどうなんだろう?

 自然とネクタイに目が向く。好奇心以外の何物でもない。でもまさかのノータイ。


「………」


 残念!悔しくて思わず膝をたたきそうになった。


 あれ?でも…皺一つない制服?4月の入学シーズンによく見かける、糊のきいた制服のまま。なんで?

 明日から6月だ。2ヵ月経過しているにしては綺麗すぎないか?あ、もしかして転入生とか?


 基本、他人に興味がない。自分が脚タレなんて中身を必要とせず、部分だけを切り売りしている仕事をしているせいか、人間とか、内面とか気にすることなく生きている。少なくとも大学卒業後の、この13年間は。


 なのに、どうしてもそこに静かに佇む学生が気にって、ついには足が止まってしまう。


 その子は身動き一つせずに、改札口から溢れ出てくる人を見てる。


 背中が丸まっている。少し面倒そうな感じだ。待ち合わせ相手は心待ちにしている人、ではない?なのにスラックスのポケットには両手を突っ込んでいる。これは他者を拒絶するポーズ。俺に話しかけるな!って意思表示がハッキリ出ている。いったい誰待ち?


 ますます興味が湧いてくる。横顔は大人っぽい。どんな子なんだろう?俺に気付いてほしいような、でも困るような…

 逡巡と、一昔前に経験したことのある緊張と。


 こっち向け…なんて念じる程度にはちゃんと顔を見たい自分。知って、たぶん、“だよな!”なんて一通りのガッカリを味わいたいだけ。ただそれだけのことだけど。

 

 何かに釣られるように(決して念ではなく)、その子がゆっくりとこちらを見た。


「えっ…」


 嘘だろ?という言葉を大量の酸素と一緒に飲み込む。一瞬で口の中が渇く。さっきとは違う種類の、身体に悪そうな緊張と驚きと、高まる動悸。


 そこにかつて恋をした相手がいる。


 手足が長く、モデルばりの体躯。学校だけじゃなく、近隣の女子大生からも追いかけまわされることが日常で、ストーカーまがいの子に切りつけられたこともあった。それさえも面白おかしく話す。怯えることを知らずに日々を楽しむ、ちょっと、いや相当イカれた人が目の前にいる。


桜木さくらぎ先輩」


 俺は13年ぶりのその人の名を口にした。


 

 


 


 


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