初恋は二度目の恋の中。

伍島 未づ来

第1話

「これ、ラストで!NAO」


 シャッター音に合わせ、ゆっくりと脚を組みかえる。セクシーに。でも下品ではいけない。あくまでこびる程度に。爪先にまで意識して筋肉を使う。


 光と視線の中心にいる俺自身を誰も見てはいない。必要なのは一部分。活躍してるのは脚のみだ。

 膝より下に色々な角度からライトが当たる。そこだけが熱いはずなのに、額にまで汗がにじむ。そこに注目を向けるということは、自分自身もそこに集中し、最高のパフォーマンスをしなければならないということだ。


「チェック入ります!」


 アシスタントの声に全身の力が抜けた。全身をさらけ出すモデルだろうが、パーツモデルだろうが、緊張感と疲労度合は大差ない気がする。


 台の上で次の指示を待つ。恰好的には水族館で芸をするために台に乗せられたアシカだ。一人で想像して、一人で苦笑した。


 今年で35歳。自分ではわからないが童顔らしく、さらに身長も体格も良くないせいか、街を歩けば大学生に間違われることもしばしば。

 セクシーにも小悪魔にも程遠い男の俺が、脚タレで、それも女性商品専属とか摩訶不思議なことだ。

 大人の仲間入りをして随分立つ俺でも、大人の世界の需要と供給にはなかなかついていけない。それでも仕事として成立し、毎日、寝るところがあって食事もとれているのだから文句はない。


「NAOさん、チェックオッケーです」


 駆け寄ってくる男性アシスタントから「ありがとう」と、礼を言ってバスタオルを受け取る。一応Tシャツに短パンなんだけど、どうも目のやり場に困るらしい。

 目が合うと彼は目線を真下にそらした。嘘じゃない。これは本当に照れているときに出るしぐさだし。バスタオルをサッと腰に巻き付ける。


「NAO、最高!」


 10年来の相棒 ひじりがカメラの前で親指を立てる。聖は俺の素性を知る唯一の人物だ。

 写真のチェックを進めながら聖はあごをさする。どうやらご満足いただけてるようだ。聖はわかりやすい。にしても、


「なぁ、学生ターゲットのアンクレットはさすがにもう厳しくないか?」


 それもカップル ペア アンクレット。厳しい以前に無性に虚しいよ、俺は。


「そんな童顔で何言ってんだよ!この前なんて高校生に間違われたよな?」


 聖が肩を震わせて笑う。これにはスタッフが食いついた。「マジですか!?」と。自慢にもなんねぇし、そこじゃねぇし!


「高校生にタメ口きかれてんの!!最後は『自分、ドコ高?』とか聞かれてんだよ。童顔の極みだよ。笑えるだろ?」


 うるさいよ。二人で組んで仕事を始めた頃に比べれば聖は洗練された大人の男に成長した。重い機材を運ぶことも多いから、何だかんだで日々鍛えられているのだ。ひょろっと男子の俺に比べると随分と男の色気も出てきたし?そこと並ぶから間違われただけ、の話だし?


「顔は関係ない。肉体的な艶とかハリの話だよ」

「だから早くモデルデビューしろって話。リミットは近いんだよ!何度も言ってるけど、脚タレだけとか勿体ないからな!俺は撮りたくて、撮りたくて、うずうずして、もう待て!が長すぎて一周回って何撮るか忘れそうだよ」

「なら、忘れとけ!聖がバカで良かったよ」

 

 聖がニヤニヤ笑いながらカメラを構える。


「撮るなよ!」

「ダチョウ俱楽部?」

「なんでだよ!どうせ俺に女装をさせたいんだろ?」

「だって見てみたいから仕方ない」

「絶対それだけはやらない」

「ダチョウ?」

「だから違うって!」


「聖さん、お願いします」


 準備が終わって声がかかる。

 今度は男性がアンクレットを手にしているパートの撮影だ。


「手は男らしいのにな」


 のにな、って…。聖は笑いながらシャッターを切る。写真がブレるわ、と楽しそうに。


「一人二役、人件費削減、有難いだろ?」

「いや、ホントホント」

「もっと崇め奉れよ!」


 一応、業界内ではそこそこ名の知れたモデルなんだけど!?


「はいはい」


 集中し始めると途端に口数が減る聖。それ以上は話しかけず、聖が納得いくまで撮影に付き合う。

 

   



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