第29話 似た者同士(新薗 冬華)

「あそこまで言わせておいて、まだ希望はあると思えるほど俺はポジティブでもないし、愚鈍ぐどんでもない」

「そう……」



 相変わらずの回りくどい言い方だったけれど、諦めたことは理解できた。だから訊き返すなんて野暮なことはしない。花川君の言葉を借りれば、私もそこまで愚鈍ではない。


 ……………………。


 心の中で安堵している自分がいる。この感情はなんなのか、人の不幸は蜜の味というほど真っ黒ではなく、かといって純白でもない。絶妙に調合された灰色、中途半端に心配する気持ちが混ざってしまっている……たちの悪い感情。


 迷うなんて馬鹿みたい。私のすべきことはとうに決まっているのに。


 導きだすまでもないしかるべき答え。それは花川君と紡希ちゃんの間にある軋轢あつれきをなくすこと。それこそが花川君の望みであり、私がしなければならない恩返し。


 灰色の感情にふたを閉め、迷いを無理矢理晴らす。後は、どうすれば軋轢をなくせるか考えるだけ。


 …………やっぱり、私とあなたは全然似てない。


 思いついたのはたった一つ、それも花川君が考え付くような方法とは正反対の正面突破。花川君に伝えたらきっと難色を示されるだろうけど、今まで試してきてこなかっただけで案外いけるかもしれない。


 いけるかもしれないじゃない――必ずやり遂げるんだ!


 そう己を鼓舞させて、



「…………それでも私は……受けた恩を返すわ」



 花川君に決意を表明した。

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俺がラブコメしたい相手はお前じゃない 深谷花びら大回転 @takato1017

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