第17話 小南のお願い2

「要するに、小南さんは練馬と二人きりになる機会を作りたいと」

「そゆこと! んで、ペア決めに関してはどうしても小細工する必要がでてくるんだけど、それについては考えてあるから、最終確認も兼ねて当日にLINEで送るつもり。とにかく! がっくんと紡希以外の協力が必要なの! お願い!」

「……小野町さんに頼まないのは何故なんです? 練馬以外を全員味方に付けた方がより上手く運べる、俺だったらそうしますけど」



 疑問に感じたことをそのまま小南にぶつける。


 すると小南は二秒ほどフリーズ、したかと思えば「やばい忘れてた」と何かを思い出した様子。



「冬華から聞いたよ~。花川さ、紡希にれてるんだって~」

「なッ⁉ おまッ――」



 どうしてバラした!と言いかけようとしたところで新薗は首を横に振った。



「――言ってないわ。言わされただけよ」



 なんとも曖昧な返しで訳が分からず、俺は再び小南に視線を戻し真実を求めた。



「いやね、前に三人で遊んだ時、冬華がやけに紡希に花川はいい人だアピールしてたからさ、これはなんかあるなと思ってあたし冬華にかまかけたんだよね。『花川って紡希のこと好きみたいよ』って。そしたら冬華が『知ってるの?』って見事に引っ掛かってくれて、それで全部聞いた」



 どこか自慢げな小南、片や新薗は居心地が悪いのか俺を視界にいれないよう斜め下の机上を安住あんじゅうの地として視線を置いている。


 こればっかりは仕方ない、不慮ふりょの事故みたいなものだ。それより新薗がちゃんと伝えてくれてたにも関わらず、バイトでの小野町さんの態度に変化なしってことはつまり、駄目だったってわけか…………ちょっと待てよ、小南は忘れてたと口にしてたが、それだとまるでこの話にも意味があるように捉えられるんだが……………まさかッ!


 目からうろことはまさに、俺の中で一気に疑問が解けたのと小南が前のめりになり顔を近づけてきたのはほぼ同時だった。



「――あたしはがっくんとペアになれて更に花川は紡希とペアになれる! どう? 花川にも得があるしウィンウィンだと思わない?」

「いやいやいやいや無理でしょ!」



 俺は背もたれいっぱいまで上体を後ろに下げ、小南と適正の距離をとる。



「俺と小野町さんの現状知ってまず? もはや一言も交わしてないですからね? 強いていえばバイトで挨拶するだけ、それだけですよ? そんな状態で二人きりの花火大会とか、気まずさと申し訳なさで心折れる自身ありますよ!」

「なに言ってんの、ピンチを最大のチャンスに変えるチャンスじゃん! それに自分の活躍を人伝いで知らせて気を引こうとするやり方が通用しないの、身に染みてわかったでしょ? だったら、回りくどいのはなしでまっすぐ当たって砕けちゃいなよ!」

「砕けちゃ駄目でしょ!」



 それしか返せなかった。他は全て小南が正しいから。


 俺がしてきたことに意味はなかった、それどころか逆効果。これじゃあぐうの音もでない。



「……あたしもさ、悪いなと思ってるんだよ。知らなかったとはいえ、狭山の件を紡希に言っちゃったこと」



 さっきまでの勢いがどこへやら、身を引いた小南は悔いるように言葉を吐いた。狭山の件、俺が架空の人物『真嶋神』になって脅したことを言ってるのだろう。



「罪滅ぼしってわけじゃないけどさ…………」



 ……しかしどうも嘘くさい。押して無理なら感がする。



「……俺が断ったらどうするんですか?」



強制ではなく協力、最終的に判断を下すのは俺。頼む側もこればっかりは相手にゆだ ねるしかない。だがもし、是が非でも味方に取り込もうという腹積はらづもりならば、俺だったら弱みを突きつけて泣く泣く受け入れてもらう。自分に当てはめて考えるのもあれだが、どうも小南からは素直に諦めるという選択肢が無さそうにうかがえる。故に弱みを保持しているのか、その確認だ。



「そんな、別にどうもしないよ。断られたら…………ただ花川を燃やすだけだし」

「実質一択じゃないですか!」



 てへッ!とあざとく笑う小南の奥底に小悪魔を見つけたり。弱みではなく純粋な脅迫とは。


 ……でもまあ小南の言ってた通り面と向かって話して和解するのが賢明けんめいなのかもしれない。ここは乗せられるとするか……なにより燃やされたくないし。



「……わかりました。協力しますよ」

「―ほんとにッ⁉ありがと!出会ってきた男子の中でがっくんの次に好きになったよ 花川のこと!」



 小悪魔は去り、変わりに天使が舞い降りた。俺からの協力を得られた小南は幼児顔負けの満面の笑みを浮かべていらっしゃる。この笑顔を見てしまったら最後、誰もが何でも許せてしまう寛容かんような心に書き換えられてしまうこと間違いなし。


 ……瞳が濁ってたおかげで騙されずに済んだが、フィルターなしで直視してたら危うく惚れてるところだったぜ。てか好きとか軽々しく言うんじゃねえよ心臓に負荷がかかるだろうが!



「―お待たせしました球磨熊スペシャルです!」



 見計らってたのでは?と疑ってしまいたくなるほど絶妙なタイミングで現れた店員さん。



「うわデカい!そして可愛い!」

「ええ、これは……可愛いわ」



 前に出された球磨熊スペシャルに興奮する二人。小南はいつの間にか手にしていたスマホで カシャリ、もひとつおまけにカシャリ。驚いたことにその隣にいる新薗も真剣な表情をしてスマホを横に構えていた。まじ意外。


 一度では運びきれなかったのか少し遅れて俺の元に球磨熊スペシャルがやってきた。


 熊をモチーフにしたカキ氷か。うん、確かにデカいし……可愛い。


 俺は対面に座る二人がまだ球磨熊スペシャルにご執心しゅうしんなのを確認し、こっそり懐からスマホを取り出した。


 ま、まああれだ、他のお客さんもみんな撮ってることだし? ここで一人カッコつけて如何にも流行に逆らいますみたいにしてても寒いだけだし? 郷に入れば郷に従えってことで…………おう、まじ映える。


 それからしばらく、俺のスマホの待ち受けは球磨熊スペシャルになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る