第3話 大会とは名ばかりのお遊び2
「ち、ちなみに、その会話の中で、お、俺の話とかってでたりした?」
「いえ、一回も花川君の名前は上がらなかったわ」
それがどうしたの? 当たり前でしょ? と新薗の表情からも語られる。
「え、一回も?」
「ええ……あなた、自分が嫌われてるってほんとにわかってるのよね?」
いやわかってるよわかってるけども、さすがに一回もないはやばくない? 嫌悪する相手を知る共通の知人を前に饒舌になる状況は整ってたというのに、それでも悪口一つ漏らさず俺に触れてこなかったってことはそれはもう口にすら出したくないほど、意識したくないほど嫌われてるってことでは……嫌よ嫌よも好きのうちすら期待できぬ絶望ってことでは……。
悪い方、悪い方へと考えが及ぶ。そして、俺一人ではもはやどうすることもできないことを知る。
「……以前、俺と小野町さんの仲を取り持つと新薗は言ってたが、覚えているか?」
「ええ、覚えてるわよ。あなたが断ったこともね。それがどうしたの?」
「あの時は余裕があったから断ったんだが、現状では店長命令に背いてまで小野町さんは俺と同じ空間にいることを拒んでくる。対話なんてできたものじゃない……が、新薗は違う。だからその、一度は断ったが、あれだ……関係修復に手を貸してくれ!」
けれど諦めるには至らなかった。一人じゃ無理、なら周りを巻き込めばいいと俺は新薗に脳天を晒す。
「実に洗練されたお辞儀だな」
茶化しているのか心からの感想なのか判断つかない吉田の言に、しかし俺は反応することなくただじっと床を見つめて新薗の答えを待つ。
「悪いけど無理よ、花川君」
上から降り注ぐ声に腰を折り曲げたまま顔を上げれば、いつのまにか立ち上がり冷めた目で見下ろしてくる新薗と視線がぶつかった。
「理由は?」
「関係修復するにあたっての材料を私が持っていないから。言い換えれば花川君の美点を私は知らない、だから無理」
なるほどな、言われて納得だ。俺への印象を良くするには俺の良いところ、長所が必要ということ。転校してきて間もない新薗はそれを知らない、というより話すようになったのもここ最近のことだから知らなくて当然。
とはいえ、自分で自分の長所をってのは
仕方ないか……。俺は姿勢を戻し僅かな希望を込めて吉田に目をやった。
「俺はお前の愚行でいつも笑わせてもらっているぞ」
「それ前にも聞いた…………あのさ吉田、もうかれこれ一年以上の付き合いなんだからさ、もっとこうあるでしょ? 俺の良いところ」
なにこれくそ恥ずかし!
自分の長所を友達から言わせようとする行いをしている自分がなんとも気持ち悪く、今すぐ立ち去りたい気持ちに駆られるが、必死に抑え込む。
一方、吉田は首を捻って悩むばかり。あ、もうこれないね。パッと思い付かないようじゃもうないよ。うん、よくわかった。
「これを機に自分を見つめ直すことをお勧めするわ、花川君」
新薗も答えあぐねている吉田を見て察したのか、そう口にして沈黙を埋めた。助言のつもりなんでしょうけど、ちょっと塩分含まれてますね、心の傷に染みます。
「取り柄が一つもないって……」
「そう悲観するな花川。ないのなら、作ればいいだろ」
あ、やっぱりなかったのね。
吉田の言は俺の長所ではなく提案だった。
「作るってお前、簡単に言うなよ」
「なに、そう難しくはない。お前は今、バスケのリーダーなのだ。そのリーダーであるお前が、クラスを学年一位に導けたとしたら、小野町という女も花川への認識を改めるかもしれない。〝集団を束ねる力がある頼れる人〟とな」
「それで小野町さんが俺を好きになるとは思えないな」
「当たり前だろ。その程度で好意を寄せられるのはハーレムもの主人公だけだ。が、決して無意味ではない。新薗も言ってたが小野町という女は学校行事に率先して取り組む人間のようだしな」
「……まあ、自分を変えるよりは手っ取り早いか」
俺はそう前向きに捉えた。
「どうして一位を取ること前提で話を進めているのよ……」
そんな俺と吉田の言葉の交わし合いを傍で見ていた新薗は額を手で抑え呆れている様子。
言いたいことはわかる、いや最もなのかもしれない。ほとんどが戦意の欠片もないだらけきったこの有様を見れば。
だが一回戦敗退だった去年とは違い、今年は反則級の存在が機械科にはいる……当人は自覚していないようだが。
「正攻法じゃまず勝てないな……が、やりようによれば一位を狙える」
「……なにを企んでいるの?」
訝しむ新薗に俺は逆に質問をぶつける。
「球磨商での球技大会は男女それぞれ別で行われるのか?」
「ええ……それがどうしたというの?」
尚もピンと来ていない様子の新薗。そんな彼女に俺は球磨商と球磨工の違いを教える。
「球磨工はな――男女混合で行われるんだよ」
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