第11話 機械科の授業2
作業を進めること二十分、いよいよ痺れを切らした…………俺が。
というのも新薗はあれから身動き一つもせずドラフターに釘付け状態。態度を崩す気配を一向に感じられないからだ。それに加えクラスの連中はそんな新薗に憐れな視線を、俺には咎める視線を送ってくるのだ。『可哀そうだろ、早く教えてやれよ』と訴えかけてくるのだ。とてもじゃないが耐えられない。
「いいか新薗、製図とはな――」
「話しかけないで」
「なら準備だけでも手伝わせてもら――」
「話しかけないで触らないで」
勢いに任せたものの答えは変わらない壊れかけのラジオこと新薗。唯一の変化としては口調が強めになったくらいだ。
人嫌いを悪く言うつもりはないが、それでも妥協していただきたい場面もある。主張を通す一貫した態度は時に周囲に迷惑となる。今の俺がそうであるようにだ。
はてさてこの状況をどうしたらいいものかと困窮していると、不意に視界の隅に影が差す。その正体を確かめるべく横を向くとそこには朗らかに笑う練馬の姿があった。
「なあ新薗、もしあれなら俺が教えるけど……もちろん迷惑だったら素直に言ってくれていいからさ、どうかな?」
良く言えば優しく当たり障りのない、悪く言えば腫れ物に扱うような口調で提案した練馬。けれどいくら角を削って丸みを帯びさせても新薗には届かない。この女は人嫌いが故、他人に対して知らぬうちに不可侵条約を結ぶ奴だ。その条約を破れば相応の報いが心に傷をつけることとなる。腫れ物以上にこの女は繊細且つ鋭利なガラス細工なのだ。
「…………よろしくお願いするわ」
………………ん?
「おう! んじゃ辰真も協力してくれ」
「俺か? 別に構わないが」
そこに吉田も合流し、さっきまでの停滞した時間が嘘のように円滑に進んでいく。そんな中ふと思い出したように練馬が振り返り俺に耳打ちしてきた。
「これで朝ブラの件チャラな」
「え、あ、おう」
狼狽えながらも何とか答える。そんな俺の肩を叩き空いた手でグットを作る練馬。俺も引きつる頬をなんとか吊り上げ笑みを作る。すると練馬は満足いったのか背中を見せた。
俺は半ば放心状態で自席に着く。未完成の機械図面を呆然と見つめながら俺はある結論を見出した。
新薗は人嫌いだから俺を拒んでたのではなく、俺が嫌いだから俺を拒んでいたのか。
練馬に介入してもらい状況は好転、踏みとどまっていた俺を救ってくれたことは素直にありがたい。感謝しかない…………だが何故だろう、知らない話題で盛り上がる友人達についていけず寂しさを紛らわす為にスマホを弄る時みたいなこの疎外感は。
…………もうやだこれ、なにこれ、帰りたい。
右隣からは探り探りながらもどこか新鮮さを感じさせる会話が聞こえてくる。その声から逃れるように俺は課題を進めた。
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