第9話 波紋呼ぶブラジャー3
「……多分誤解してると思われるから前もって言っておくけどこれは違うからな? 慈悲もない絵面だけども良心に基づいて行動した結果だから、勘違いしないでもらいたい」
「醜い争いの末、女性用の下着を奪ったあなたの口から良心なんて言葉がでてくるとは……あなた、どういう環境で育ってきたの?」
新薗の冷酷な視線を受け底冷えして震えあがりそうになる俺の体。まるで季節外れの木枯らしが吹き荒れたようだ。
「少なくともあそこにいる変態よりは真面に育ってきたつもりだ。いいか? 俺が性的衝動に駆られて暴走したんじゃなく、本間が本能の赴くままに暴走したんだからな? それを止めようとした俺には称賛される権利はあるが蔑まれるのはお門違いだ」
「言い逃れできないと踏んだら今度は人に罪を擦り付ける…………見下げた下衆ね。産まれてきた事を恨んでもおかしくないレベルよ」
氷柱の如き冷たく鋭い言葉に心が折れそうになる。というかもう既に折れている。新薗からしたら心証の悪い俺の言う事など信用に値しない、つまり俺一人が弁明したところで意味をなさない。
が、それは一人なら不可能なだけ。俺には心強い証人がいる。
「ちょっと練馬、吉田、お前等からも事情を説明してやってくれ! 俺一人じゃどうにもならない」
「あ~…………まあいんじゃね? 見ようによっちゃラブコメっぽいし、夢叶ったりじゃん」
「そうだな。それに花川、時には理不尽を呑み込まなければならない。社会に出ればそのような状況が多く転がっている。考えようによれば今諦めることは社会経験に繋がるということだ。ポジティブにいこう」
俺は言葉を喪失した。まさかこんな前向きなお断りがくるとは。
呆然と立ち尽くす俺に誰も声をかける事はなかった。珍しく静寂に包まれた朝の機械科。それはもう、直ぐに現れた三村先生が「……どうした?」と心配を口にするくらいのお通夜状態。
そんな三村先生の心配を余所に、俺は汚物を上着のポッケの中へそっと隠した。
…………ほんと、友達って何なんでしょうね。
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