19話 生きてる証

『青の都・サマルカンド』



内務省サマルカンド公安局の、評議会議長直通回線が通じることは、ここ何十年もなかった事だ。


「鉱物資源企業団公社ビルを占拠せよ」


評議会議長の感情を抑えた言葉が流れてきた。

あえて感情を抑えた寒気を誘う声質だ。思考回路が凍えそうな気分だ。


その声に、反論を唱えるのは、恐怖を感じるが、内務省特殊部隊隊長ハミルは、


「議員の反発が予想されます」


と返答した。


形式上でも、この程度の意見は言っておかないと、無能なイエスマンと思われかねない。その加減は難しい。


サマルカンドの議員は、公社の代理人たちだ。

この惑星で、もっとも評議会議長と対立している勢力だ。


鉱物資源公社は、この太陽系全域に広がる利権を持っている勢力だけに、中々手強い。


議長は、ハミルの返答に「最もだが」的な雰囲気を出した後、

「民衆のデモ隊を、公社ビルに誘導し、デモ隊を追うか形で特殊部隊を公社ビルに突入させろ。デモ隊鎮圧の大儀があれば、議員にも言い訳が出来る。

報道局のカメラクルーを手配した。映像証拠があれば、さすがの議員は何も言えん。

健闘を祈る。」


回線はきられ公安局に僅かに安堵の雰囲気が流れた。


議長に健闘を祈られた以上、それなりの結果を出さなければならない。

そう言った圧力のある言葉だ。ストレスで思考エラーが出そうだ。


「サマルカンド州全域の、状況を出せるか?」

ハミルの問いに、オペレーターが、心地よい返事を返した。思考回路に染み渡る癒しの声質だ。


公安局の大型モニターには、サマルカンド州全域の民衆蜂起状況が、映し出された。

装甲騎兵の働きにより、サマルカンド州の民主蜂起は鎮圧されつつあり、戒厳令を布かれた大型モニターに映るサマルカンド州全域の、大部分は沈静化しているように見えた。


「隊長!任務は順調に進んでおります!」


優秀すぎる装甲騎兵たちは、満足した表情で伝えてきた。


「タイミングの悪い・・・もう少し早めに言ってくれれば、折角鎮圧したと言うのに・・・」


ハミルは小さく呟いた。

鉱物資源公社占拠の大義名分は、優秀な装甲騎兵によって消されてしまった。


「戒厳令を解除、州全域の装甲騎兵を引き上げさせろ」


出来過ぎる部下を持つのも問題だ。


ハミルは、自らの机の直通回線を取ると、

「Cー0058(デモ隊を煽れるか?)」

と暗号コードを呟いた。


「ОT37(了解)」


こちらは、かなりのイエスマンだ。

ハミルは、議長とは違いイエスマンが大好きだ。

優秀過ぎず、だからと言って無能ではないイエスマン。


「R-57(公社本社ビル)」

サミルは呟くように言うと、回線を切った。




『地下鉄遺跡・地上』


地上の荒野に、2機のアンドロイドが黄昏ているように、佇んでいた。


ソフィーにとって、デューカ以外と、こうやって2人きりになるのは久しぶりだ。

しかし、相手はただの機械のアンドロイド。

でも今は信頼しつつある存在だ。


「サマルカンドにある宇宙港。

鉱物資源企業団公社なら、宇宙船の1つや2つ手配出来るでしょう」



「はい。しかし、鉱物資源企業団公社の宇宙船は大部分が、貨物輸送船でございます。大気圏で待ち構える空軍の宇宙船を突破するのは、至難の業と考えます」


「その時は、その時で、考えましょう」


「不確定要素が多すぎます」


ソフィーの参謀は、不安げに答えた。

ソフィーにそう聞こえただけかもしれないが。

ソフィーが参謀の思考回路を探ると、参謀の思考回路内のアルゴリズム(問題を解決するための手順)に、空白が目立っていた。


「アルゴリズムの空白は嫌い?」


「好ましい状況とは思えません。」


「そんなんじゃ、気楽には生きられないよ」


ソフィーは言うと『気楽な微笑』を参謀の思考回路に送った。

参謀の思考回路が微かに迷った。

「生きる」と言う単語が、上手く処理出来なかった為だ。


「わたしは、生きているのですか?」


ソフィーは、そう言う参謀の横顔をチラっとだけ見た。


>わたしは生きてるの?


ソフィーは思考回路の奥で思い、指を動かしてみた。

自分の意思が、この世界を少しだけでも動かしている。

それが生きている証なのかは、解らなかった。



つづく




いつも読んで頂き、ありがとうございます。

毎週、土曜日更新です O(≧∇≦)O イエイ!!

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