11話 人形の惑星


 花売りアンドロイドのサクラは、店じまい後の薄暗い花屋の店内で、売り上げの計算をしていた。

そこへ魚釣りの道具を担いだ常連客で親友のミカが、花屋の店内に入ってきた。


「こんばんは」

「いらっしゃいませ♪ん?魚釣り?」

「みんな猫用の餌を取ってるみたいだから、私も猫を見かけたら魚あげようと思って、釣り具買ってきたの」


人類の宇宙船から、猫が逃げ出したというニュースが、連日報道されていた。


猫を含む地上の生き物は、人類とともに滅びた。

ゆえに地上には猫が、食べられるものが存在しない。


首都の花売りアンドロイド・サクラは、遠い記憶にあった猫を想った。

人間時代に飼っていた猫は、三毛猫だった。


「ねえ、充電機使って良い?」

「どうぞ」

「ありがと、充電する暇がなくてさ。後、数分できれるところだったよ」

「もうミカは冒険者なんだから」

「このギリギリを生きてる所がスリルなのよ」

「街で止まっちゃうと恥ずかしいでしょう」

「それはね」


ミカは、店の奥にある充電用の椅子に座った。

思考回路のバグも一緒に取って、すっきりさせてくれる、ちょっと良いやつだ。


「ねえ聞いた?英雄カーンがやられたって」

「聞いたよ、がっかりだよね」


反乱軍によって英雄カーン少佐が破壊されたと言う情報は、電力供給がままならない混乱の中、当局による報道管制の網をすり抜けて、首都住民の知ることとなった。

軍内の情報を知る誰かが故意に流したのだろう。


当局は急遽記者会見を行い、カーン少佐の思考回路破壊原因を、

『階段での転倒事故による』

と偽りの説明をした。


その偽の発表が、さらに首都住民を不安に陥れた。


『カーンは反乱軍に消された』

『反乱軍が攻めて来る』

『首都のアンドロイドはみんなスクラップにされる』

『政府要人は、首都から逃げ始めてる』

『もう、誰も俺達を守ってくれない』

『皆の衆、消去のお覚悟を』


首都のあちこちで不安を煽る声が聞こえてきていた。



「反乱軍も、最初は良かったんだけど、発電所爆破なんかしちゃたらね。なんか嫌な感じじゃない?」


店の常連客のミカは、花の様にあどけなく、そして優しい面影のサクラを見ながら言った。明らかに、サクラには不似合いな話題だ。


「でも、あの人類を、この星から追い出したくないって言う気持ち、解る気がする」


「私もあの人類を見た時、なんとも言えない懐かしい気持ちになったし、あの人たちを守りたいっとは思ったよ。でも、それはそれじゃない。

だって、街は真っ暗だし、もしかすると私達だって動けなくなるかも知れないでしょう。私達みたいな底辺から電源カットが始まるって噂よ。

どうする、動けなくなったら、私達ただの置物の人形よ」


「そうね」

サクラは、売上を記しながら軽く相槌を打った。

ミカは、サクラの花の様に優しくあどけない面影を見ると


「サクラなら綺麗な人形になりそう」

「え~そんな事ないよ」


店内の明かりが消え、ミカの座る充電用の椅子のディスプレイの明かりだけが、店内を照らしていた。


「まただ」


首都全域は、不安に満ちた暗闇に包まれた。

暗闇の中、サクラは、動きを止めた人形の惑星を想像した。


そして、まだ自身の機体が動いていることを確認した。



つづく



あけまして、おめでとうございます。

今年も、よろしくお願いします。O(≧∇≦)O イエイ!!

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