10話 少佐が知った小さな事実、諸共


決戦となる場所へ先についた方が、有利なのは、機械の文明だろうが人間の文明だろうが、猫の文明だとしても、共通した理屈なのかも知れない。


ソフィーが、鍾乳洞のほぼ全貌の地形マップを、手に入れたのは、カーンが鍾乳洞に入った直後だった。


「仕事の早い連中だ。処理速度が違いすぎる」


ソフィーは、破壊され頭部ユニットの奥で、新しい部下たちを褒め称えた。


今、その孤独な機械兵に守られながら、鍾乳洞の暗闇を見つめていた。


それにしても、アローン兵の機体の金のかけ方が半端ない。

金属がまったく使われていない。カーボンとセラミックの塊だ。

ステレス性が半端ない。


評議会がAIで動く一般アンドロイドを信じていない証だ。


お前らだってAIだろうに・・・


     ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡 ☆彡


ソフィー率いるアローン兵と、カーン少佐率いる装甲騎兵の戦闘は、鍾乳洞入り口付近に潜んでいた、アローン兵の銃声から始まった。


その銃声の音を合図にしたかのように、少佐と装甲騎兵達は、浮遊感に似た非現実的な感覚に襲われた。


人なら『夢心地』もしくは『陶酔』と表現するだろうが、夢を見ない機械たちには、その感覚を表現する言葉を忘れてしまっていた。


人類時代に優しい想い人に抱きしめた時の様な陶酔感。


装甲騎兵の将校が、胸を撃ちつかれるような恋の時めきを感じた時、その将校の機体の胸は、アローン兵の銃弾に撃ち抜かれていた。


少佐の心は、遠い銀河に旅立った妻に、激しく時めいていた。


>こんなの幻想だろう。


思考回路のどこかで、そう理解した時、激しい悲しみに襲われ、妻を追いかけなかった事を後悔した。


『1段1段が微々たるものなので、そこが螺旋階段だと気付く者は少ない。降りているのか昇っているのか、1度止って、来た道を振り返って見るがいい。さすれば気づくだろう。』


少佐の思考回路内で誰かが話している声がした。


>私の思考回路内で何者?

>螺旋階段?我々は降りているのか?昇っているのか?


少佐は、夢心地の感覚の中、目の前で銃撃され部下が砕け散っていく様子を、暗い映画館の中で戦闘シーンを見ているかの様に、眺めた。


今や装甲騎兵は背後と側面からの銃撃に晒されていた。

装甲騎兵の中には、闇雲に銃を乱射している者もいたが、組織的な反撃は皆無だった。


1機・・・2機、3機と、部下が砕け散っていくのを、映画の中の出来事のように見ながら、少佐は、思考を巡らした。


>これは現実か?この心地よい浮遊感は?

>この感覚、もしかすると思考回路のどこかの半導体が異常を起こしているのか?


その半導体の異常が、アローン兵の暴走に関連しているかもしれない。

そしてこの反乱の黒幕の正体を突き詰めることが出来るかも知れない。


>この事実を議長に伝えたら、我が身は安泰だ。


指揮官として現状を認識できたのは、部下が全滅し自らも、水が流れる鍾乳洞の地面に倒れこんだ後だった。


抵抗する術を無くした少佐は、鍾乳洞の奥からアローン兵と伴に現れたソフィーの姿を見た。


「お前が反乱軍のソフィー?」


少佐の言葉が終わる前に、ソフィーの怒りの意思が伝わった孤独な機械兵のセラミック製の足が、少佐の記憶装置を踏み潰した。


少佐が知った小さな事実、諸共。



つづく


いつも読んで頂き、ありがとうございます。 O(≧∇≦)O イエイ!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る